2016年8月9日(火)
日経新聞 8月3日朝刊『春秋』より
閣議決定 『未来への投資』は有効か?
50年以上昔、東海道新幹線の建設を支えてくれたのは、世界銀行である。 前回の東京オリンピックに向けて、東海道新幹線の建設に向け、突貫工事を進めていた1960年代初め。国鉄は資金不足で悩んでいた。 そこへ、世界銀行は8000万ドル(当時、円ドルレートは、360円/ドルなので、288億円)をポンと貸出してくれた。このお金なしに東京オリンピック直前の開業は無理だったかもしれない。 世界銀行が1950年代から高度経済成長をはかる日本に貸し付けたお金は8億6000万ドルに上る。新幹線のほか、火力発電所、黒四ダム、水力発電所、製鉄所、高速道路、自動車産業など戦後日本のインフラ事業建設など、31ものプロジェクトに対し融資をしてくれた。この融資を活用することで、日本の工業力が大きく進展した。これは日本が今後、伸び盛りの国と見込んでのこと。 日本は今や、世界銀行の世界第二の出資国になった。 さて、時は流れて、半世紀。2014年に東海道新幹線開業50周年を迎えた。 新幹線はこの50年間に技術進化を繰り返し遂げ、初代のゼロ系は団子鼻で愛嬌があった。その後、続々と100系、300系、500系、700系、N700系になった。 ![]() ![]() ![]() ![]() かっこが良かった500系 ![]() 500系の窮屈さをなくして室内は広々。 ![]() N700系を更に改善し、遠心力を傾きを変えてキャンセルする最新型車両はN700A(A:アドバンス)で、時速300km以上、最速で走る。 当初、東京―大阪間は4時間かかったが、今は2時間半となった。 さて、話を戻すと、政府はリニア中央新幹線建設費としてJR東海に3兆円融資する計画になっている。財政投融資を活用し、2045年予定の大阪延伸を最大8年間前倒しするという。8月2日、閣議決定した第二次アベノミクスの成長戦略の目玉の経済対策だそうだ。時速500kmというとてつもない速度で営業運転する。 ジェット機は巡航速度は900kmぐらいで、リニア新幹線の約倍近く飛ぶが、離着陸時は300km/時なので、東京(羽田)~伊丹で50分前後かかる。搭乗手続きた空港までのアクセス時間を考慮すると、リニア新幹線は時間的に飛行機に十分対応できる。 しかし、リニア中央新幹線は東海道新幹線と比べて難しい課題が予想される。特に南アルプス山脈を横切るトンネルが地質の悪さや、地下水の噴出など難工事が予想され、ネックになるらしい。用地買収等の費用も跳ね上がり、建設費が膨れ上がる可能性もある。融資があったから、建設が前倒しできるとは限らない。 「未来への投資」と今回の経済対策は銘打っているが、かつて、世界銀行が戦後の日本にお金を出した時のように生きた使い道になるだろうか? 50数年前の日本に比べて、この国の将来不安はひどく色濃いものになっている。リニア新幹線が開通する頃に、高齢化と人口減少がうんと進む。 リニア新幹線は1時間余りで、大阪から東京に行ける超便利な乗り物ができるが、その時に利用客がどの程度あるのかが懸念される。 新幹線もいいが、そういう根本の問題をどうする? |