2019年1月11日(金)
原発は成り立たない状況に陥っている!
安倍政権の成長戦略の柱の一つとして、原発の海外輸出の取り組みであるが政府が前面に立ち、日立、東芝、三菱などの原発メーカと手を組み、官民一体で海外への原発事業の輸出推進を行ってきた。 しかし、現状は下図のとおり、すべてのプロジェクトが失敗している。 福島原発事故以来、原発の安全性が課題になり、安全性を高めるための設計変更や、追加工事費用が予想をはるかに超え、当初の計画に対して大幅なコスト増となり、今まで進めてきたプロジェクトはことごとく中止、または延期に追い込まれている。 ![]() 今日の日経新聞によると、日立製作所と英国の子会社、または協力企業、日本政府と英国政府が出資して開発を進めてきた英国の原発(英中部アングルシー島に原発2基を新設するプロジェクト)は、工事費は当初予定の2倍に膨れ上がり、3兆円となっている。 その内、2兆円は英国政府が出資(融資)し、残り1兆円弱は、日立(日立の現地子会社)が1/3、日本政府および日本企業が1/3、残り1/3は英国企業と英国政府が負担することで進められてきたが、ここにきて、その出資がうまく集まらないことや、工事費が正確に見通せないという状況になり、中西会長(日立製作所)は、このプロジェクトの中止に踏み切る決断をしたようだ。今までの出資額が2千億円から3千億円に登り、その損失を減損処理するため来週の役員会で決定する。 そう言えば、数日前に、NHKテレビニュースで中西会長が、経団連会長として年頭の挨拶の中で、「今後、日本および世界で原発事業を推進することは、世界の世論や、国内の世論から考えて、難しくなるだろう」という発言をしていた。 この時は、原発メーカである日立の会長の話として、少々違和感を感じたが、「中西会長は正しく現状を把握していたのだな!」という気がする。 東芝はアメリカの原発事業で、6千億円を上回る損失を出し、その痛手で東芝は虎の子の先端技術を駆使した半導体事業や、MRIなどの先端医療機器事業を売却することになった。 日立は、東芝の1/3位の損失に収めることが出来たようだから、まだましだと思う。 しかし、原発事業にわざわざ数千憶円の金をどぶに捨てるような事業プロジェクトは実にもったいない合理性のない話だ。 言い方を変えると、そこまでバカをやるかだ! 東芝と日立の損失を合計すると、1兆円以上になる。多分、公表はされないと思うが、我々の税金を使う日本政府の投資も、プロジェクトが中止になれば回収できないから、損金となるはず。 なぜ、こんな損失を出しながら、まだ原発事業から抜け出せないのかというと、原発を造り続けないと、原発のノウハウや、原子力関連の技術者の育成ができないからだと言われている。未来の無尽蔵のエネルギーを得る手段としてスタートした原発だが、一度事故を起こせば取り返しがつかない。事故後の処理費用は膨大な時間と金がかかる。住民に対する被害も計り知れない。そういう危険性がある原発にいつまでしがみ着くのか。 そんな金があるのなら、日本の背骨になる大電力送電線網を早く構築して、自然エネルギーの地域間格差を平準化し、活用ができる電力ネットワークプロジェクトを進めるべきだ。この件は、各電力会社の所有する送電網が地域割り規制(縄張り)等でなかなか進まない。これを崩すには、電気事業法を改正して、政治の力で改革するしかないだろう。 今日の朝日新聞に、関西電力が送配電部門を分社化するという記事が載っていた。経産省あたりから電力会社に、陰で圧力をかけ始めたのかもしれない。 九州は既に太陽光発電だけで、総需要電力が賄えるところまで来ている。原発や火力発電の分が余るので、逆に太陽光発電の電力を送電線に繋ぐことを拒否し、接続カットを実施している。燃料コストの安い太陽光電力を使わずに余しながら、原発や火力を稼働させているというもったいない状態になっている。 しかし、この自然エネルギーへの転換は、何年か後に必ず全国的な潮流になる。 日本には、現実的な姿になって、初めて政府や官庁が動き出すという癖がある。 国会議員がもっとしっかり勉強して、本当のあるべき姿や流れの先取りができるようになって欲しい。 日立製作所が、今回の英国原子力発電事業撤退で、東芝の二の舞にならないことを祈っている。 |
2019年1月6日(日)
石油ファンヒータのいい買い物をしました
我が家は生駒山系国立公園内の標高80mの山腹にあり、大阪市内より外気温は2度低くなります。 冬の暖房は、初冬は電気のエアコンですが、冬本番の間は、ガスと石油ファンヒータを使用しています。1階は、ガスファンヒーター2基が活躍します。ガスファンヒータ用に特別に、床に元栓を取り付けています。ガスファンは燃料補給の必要がありません。 しかも、ガスは使用中(燃焼中)に全く臭いがしませんので、居間や台所で使うのは大変重宝しています。 2階の自分の部屋は、春先や初冬はエアコンでも暖房に問題ないのですが、厳寒期はエアコンの利きが悪いので、石油ファンヒータを使ってきました。商品は『ダイニチ』という石油ファンヒータの老舗のものです。 ![]() 今年は設定温度を20度以上にすると、強力に燃えますが、バーナーの炎が連続して強く燃えるのでなく、強まったり、弱くなったり、燃え方が不安定になりました。それを繰り返す内に、E3というエラー表示が出て、燃焼がストップします。 この状態を繰り返すようになりました。 この商品は5年前に買ったのモノで、未だ、使えないことはなかったので、上のような不具合が頻発するようになり修理も考えましたが、近くの『コーナン』に立ち寄った際、ぶらっと石油機器販売コーナを見ました。何とダイニチで、同じ外観で、全く同じ商品が売られていました。値段は、9,780円(税別、年内特価)になっています。 昔の芯式石油ストーブも相変わらず横に陳列されていましたが、いいものは、15,000円以上します。石油ストーブは、50年前から使ったことがありますが、着火時に黒いススが出て、次第に燃焼筒が赤くなり、燃焼が安定するまで数分かかり、その間は石油の臭いがきつくて、とても不快な思いをしました。また、消すときも、同様に臭いがきつかったです。 ダイニチの石油ファンヒータは、石油ストーブより5000円も安く、ボタン押すだけで、1分以内(40秒程度)で点火してすぐ暖まります。しかも、臭いも殆どありません。 そこで、新しいものを買い、古いものはコーナンに引き取ってもらうことにしました。 さて、新商品の報告ですが、デザイン、機能は全く5年前のモノと変わりません。 違う点は、着火時の臭い、消火時の臭いが殆どないことです。これは素晴らしい商品だと思います。ACコンセントは挿したまま状態ですから、使わない時でも、わずかの余熱用(待機)消費電力が必要ですが、ボタンを押して点火するまで40秒程度で着火しますので、ほとんど待ち時間を気にすることがありません。これは寒い朝、特に重宝します。 ダイニチのファンヒータは、石油ガス化方式ですから、ガスバーナーのような燃え方をします。芯はありません。 石油暖房器の欠点は、点火・消火時に、独特の臭いがすることが欠点でしたが、この商品は臭わないという優れものです。 保証期間は3年ですから、前の商品は丸5年使いましたので、多分、修理すれば数千円ほどかかったと思います。新品が税込でも1万円程度で買えるので、新品に代えて良かったと思います。 ダイニチは石油ファンヒータの老舗で、他には、コロナ、トヨトミというメーカも有名です。ダイニチは国内製造(新潟)をセールスポイントにしています。 外観は、全く同じですから金型は変えずに、石油ファンヒータの一番弱点の臭いを無くすることに徹底して取り組んだのだろうと思います。しかも1万円以下で販売するためには、考えられない努力が必要でしょう。消費税込みで、1万円ちょいですから、超お買い得商品です。 この性能、この値段は他の追随を許さない素晴らしい商品だと思います。 久々に満足感が高い商品に出合いました。 最後に品番は、FW-3218S 仕様は、操作ボタン:eco,チャイルドロック、設定温度、室内温度、連続運転、on/off 燃焼時の動作音(騒音)も電気のエアコンと比べて同じような程度です。 燃焼出力;3.2Kw~0.74kw、9畳まで 石油タンクは5リッター、「汚れま栓」、給油時に手に石油が付かず重宝しています。 従来の芯式石油ストーブも相変わらず根強い人気があるようです。 その理由は、地震等で電気が停電になっても、これなら暖房が使えるということで、買う人が結構いるそうです。着火時と、消火時の臭いも、大分少なくなったようですが、ファンヒータと燃焼構造が全く違うので、やはり少々臭いがするでしょう。 |
2019年1月3日(木)
昨年の国会の各委員会の審議(議論)は、とんでもない応答の連続だった!
国会は国家の最高決議機関であり、その審議は国民が注視している。
国会に相応しい品格を取戻し、真摯な議論を『しっかり』やって欲しい!
このままでは、彼らを選んだ国民をばかにしているようにも見える!
いや、彼らを選んだ我々が馬鹿なのかもしれない。 反省すべき!
「ご飯論法」が国会審議で通じた? 国会の品格を疑う
こと、ここに至れり! 漫才・落語のダジャレではない!。朝日新聞の12月30日の朝刊、社説の中の話。 『問われる閣僚の資質』というタイトルの中で、国会審議の答弁の粗雑さも目立ったという話。野党の質問をはぐらかし続ける加藤労相(当時)らの手法は、パンは食べたが米は食べていないので、『朝ご飯は食べていない』と答える『ご飯論法』と命名された。 この話は、重要な意味を含んでいる。 この質問の前後の議論の流れを知る必要がある。 議論が、ご飯、米などの食料品に関する審議なら、『ご飯論法』も納得できる。 そうではなく、一般的な(食)生活の話で、「パンは食べたが、朝ご飯は食べていない」という答弁は、国会の委員会の議論に相応しい答弁ではない。 朝ご飯、昼ご飯、夕ご飯は一般的に、朝食、昼食、夕食と同じ意味である。 普通の日本人の話では、米の飯(米の飯)を食べたかどうかではない。 わざわざ、飯(めし)を食べたか、パンを食べたか、うどんを食べたか?などを聞いているのではない。要は「食事をしましたか?」という話。 国会は『ダジャレを言う場ではない』 常に真剣勝負を与野党で戦わせ審議する場であるはず。沢山の議員は自分の得意分野の知識や情報を駆使して国家国民のために尽くさなければならない立場である。 身を切られるような緊張感を持って、真摯な議論をし、国家国民の負託に応える場だ。 国の最高の審議、決議の場で「ご飯論法」とは何事か! これを見過ごす日本人は、大いに反省しなければならない。 国会が国会なら、これを見過ごす国民も『馬鹿になった』と言われても仕方ない。 そのバカになった国民を、馬鹿だからこのくらいいい加減なことを言っても、やっても、自民党支持率、安倍政権支持率は40%台を維持している。 支持率が高いことをいいこととして、何でもあり、何をやってもOKだと、多寡をくくったやり方や議論や、行いがまかり通る。 新聞は、このままでは民主主義の崩壊だとも書いているが、国民が反応しない。 国民が、平成の平安な状況の中で、不感症に陥ったと言われても仕方ない。 何が起きても我がことではないという平和ボケ国民になった。 朝ご飯は食べましたか? 米は食べていないので、ご飯は食べていません。 朝ご飯は、ご飯でも、パンでも、要は朝ご飯ということは「朝食」という意味でしょう。 このようなやり取りを国会審議の場で、堂々とまかり通ることは、小学生から見ても、おかしいと思うはず。そんなやり取りに時間を費やしているのが、今の国会だ! |
2018年12月5日(水)
とんでもないことをまだやるか? 第2弾
朝日新聞(12/6日朝刊 社説より)
12月2日付で、 『まだやるか! とんでもないことを!』 で書いたが、同様なことを朝日新聞 12月5日付朝刊 社説で書いている。 タイトルの違いはあるが、主旨は同じこと。 日本の原子力政策、核燃料サイクル計画は破綻しているが、それを認めず、とにかく高速炉は諦めていないという姿勢だけ示しズルズルと先延ばしする日本の政治家の優柔不断の気質を物語っている。 そんなことに、なけなしの金を使う余裕はあるのか? そんな金があるのなら、太陽光発電や風力発電や、大規模送電線網や、大電力蓄電装置などの開発や推進に投じれば自然エネルギーの開発促進が図られる。 いつまでも原子力発電にしがみついていては先がない。 トイレのないマンションに好き続けることはできないはずだ。 高速炉開発、まだ破綻を認めぬのか 高速増殖炉「もんじゅ」の失敗を省みず、高速炉の実現をめざして巨費を投じ続ける。 そんな行程表の骨子を、経済産業省が明らかにした。 もんじゅ廃炉で破綻した核燃料サイクル政策の延命は許されない。考え直すべきだ。 高速炉は、プルトニュウムを効率的に燃やすことができる。原発の使用済み燃料からプルトニュウムを取りだし、再び発電に使う核燃料サイクルで中核的な役割を担う。国は1950年代から開発を進めてきた。 ところが、1兆1千億円を投じたもんじゅは、20年余りの間ほとんど運転できないまま、2年前に廃炉が決まった。この際に、関係省庁や電力業界、原発メーカなどでつくった高速炉開発会議の作業部会が今後の行程を検討し、初めてまとめたのが今回の骨子である。 福島の原発事故前は、もんじゅの次の段階の実証炉を2025年頃までに、商業炉を50年より前に実現する計画だった。新たな骨子では、もんじゅの後継炉の運転を今世紀半ばごろに始め、今世紀後半高速炉を本格的に運用するという。目標時期をぼかし、先送りした形だ。 炉の具体的な形式や出力の規模も示さず、採用する技術は5年ほどかけて絞り込むことになっている。とにかく開発を続けていればいい、という姿勢が透けて見える。 高速炉開発を残念すれば、核燃料サイクルの破綻が鮮明になる。そうなると青森県で建設中の再処理工場をどうするのか、全国の原発で貯まっている使用済み核燃料をどう取り扱うのか、と言った難問が噴出する。それを避けるには、高速炉の開発を続け、核燃料サイクルの破綻を取り繕うしかない。 だからこそ政府は、もんじゅの廃炉を決めた際も、高速炉開発の是非を正面から総括しなかった。破綻した政策を延命するため、税金や電気料金の形で、国民に巨額のツケを回し続けるのは無責任である。 福島の事故を受けた安全対策の強化などの影響でコストが上昇し、一般的な原発ですら競争力を失いつつある。より技術的に難しく経済性でも劣る高速炉の実用化に、現実味はない。このため先進国の多くは開発から撤退した。熱心に取り組んできたフランスでも、いま、高速実証炉「アストリッド」の計画が行き詰まっている。 そんな現実を、なぜ冷静に見つめることができないのか。 限られた予算は、再生エネルギーのように将来性のある分野に有効活用するべきだ。 核燃料サイクルとは、下記のURLに詳細説明が掲載されています。 http://www.fepc.or.jp/nuclear/cycle/about/ ![]() |
2018年12月2日(日)
まだやるか! とんでもないことを!
経産省、原子力ベンチャー育成…次世代原子炉開発へ
“野党は何をこまねいているんだ!”
福島原発爆発後の事故処理が手に負えず進まない中で、今なお被害や住民の痛みが続いている中で、政府は何と原子力分野のベンチャ育成に乗り出し、次世代原子炉の開発を進める!というショッキングな記事を読んだ。 とんでもない話だ! 国や電力会社や大企業が取り組んでも、原子力発電は、一旦事故が起きれば制御不能状態に陥る。そしてその被害は長期にわたり被害を及ぼす。福島の原発周辺の人々の生活は未だ元に戻れないでいる。 火事やガス爆発なら事故が起きても、その火事や爆発が終われば自然に収束する。これは事故により生じる変化が分子の世界の出来事だからだ。 原発事故は、分子の化学的変化ではなく、物質の原子の原子核の分裂の世界の話であり、全く次元が異なり事を政治家や政府は、正しく理解しているのだろうか? 原子核が分裂すると言うことは、全く違う原子が生まれるということを意味する。 その新しく生まれた原子は不安定で、必ず強烈な放射線(α線や、β線や、γ線)を放出しながら、次第に安定な状態になろうとする。 そのプロセスは制御することは人間の力ではどうすることもできない。ただ経過を傍観するだけとなる。その間、放射線や放射性物質を放散する。 一度、異常な核分裂事故が起きれば、対応ができない。手が着けられない 火事のように水をかけて火を消すとか、そういうレベルの話ではない。 このことが、原子力事故と、その他の事故とは大きく次元が異なる点だ。 原子核分裂で生じた放射性物質は種類により異なるが、放射線を何年、何十年、何百年、何千年、・・・と天文学的な時間が経たないと半減しない。 その間、強烈な放射線を出し続ける。放射線の強度により、数分間、人体が浴びると死に至るほど強い放射線が炉心内で発生している。だから、何が起きようと格納器や炉心は壊れないように頑丈に造っている。 その強度は過去の災害、火山爆発、地震、津波などのデータを元にした想定値で設計したものであり、想定を上回る自然災害が起きれば設計レベルを上回ることになる。 もし原子炉が壊れると、想定外の出来事が起きたということで片付けられる。 一般的に、モノづくりは過去の経験や知見で、ある想定をし、その想定レベルに耐えうるような強度設計をして、それに適当な安全係数をかけて、構造物を造る。 この一般的なモノを設計する場合、万一、安全が保てなければ、設計値をアップするか、安全率を上げて設計し直して安全を確保すればいい。 しかし、こと原子力の世界では、万一の事故が起きれば取り返しがつかなくなる。 このことが、原子力発電と、それ以外の建造物や工業製品などと、設計の根本的な違いである。 だから、福島原発事故を参考に、原子力発電の安全基準を見直して、厳しい安全基準を作り、新安全基準として、これに合格した原発は再稼働が始まった。 これは従来の安全にかかわる一般的な設計概念と同じことだ。 この厳しい新安全基準を満たせば、その原発は絶対安全だと言えるだろうか? 答えは『ノー』である。 原子力安全審査委員も言っている。 「新安全基準は以前の安全審査基準に比べて、格段に厳しい基準を元に審査しているから、安全度は随分高くなったが、これで審査して合格したから、絶対安全かと言われれば、そうだとは言えない」と言っている。 これが正直な答えだ。 新安全基準を超える火山の大噴火、東日本大震災を上回る地震、原発設置場所の直下型大地震、外国からのミサイル攻撃、人為的な運転ミスなど、考えられないような事象が原因になることはいくらでも起こり得る。 それが分かっていながら、まだ原発を止められないのは、原発は危険だからやめようという意思を持たないからだ。 ドイツのメルケル首相は、『今後、原発を止める』とはっきり表明している。 日本も、福島原発事故以来、全原発が停止した状態が続いたが、電力危機に陥ることなく過ごしてきた。 原発の代わりに、火力発電で相当カバーしたので、CO2排出量が一時増えたが、原発ゼロでも、電力危機にならず、乗り切れたことは事実だ。 脱原発をやる意志さえもてば、もっと早く太陽光発電を進め、風力発電を建設し、地熱発電を開発し、小水力発電を認めれば、火力発電に頼る分を減らしながら、原発ゼロでも十分やって行ける。 要は、『原発を止めて廃炉にする』という政府の方針次第だ。 自民党議員には、電力会社の利益代表者が沢山居るので、原発の怖さを知っていながら、正面から脱原発を言いだす人はいない。 それなら、なぜ、野党の議員が脱原発を叫ばないのか不思議だ。 その背景は野党にも電力労組から担がれた議員がたくさん居るからだ。そういう人は原発推進派に回る。 今の強力な自民党に真っ向から対処できる政党を構築する策は、原発を最大テーマに掲げて国民に訴えることしかない。 それ以外のことは、与党も野党も違いはそう大きくないから、野党の訴求力は打ち消されてしまう。 森加計問題もあれだけ騒いでいながら、結局は安倍一強に打ち消されてしまったではないか。その理由は、森加計問題は直接国民の生活に響かない事案だからだ。 総理案件とかなんとか、忖度とかいろんな言葉が飛び交ったが,直接国民の生活に大きな影響はない。決して見過ごしのできない問題であるが、その問題の次元と、原発廃止の課題の次元は全く違う。 野党はもっとこの問題を第一議案に据えて、徹底して取り組むべきだと思うが、腰抜けになった野党ではダメだ。 その点、科学者、メルケル女史は素晴らしい判断や決断を下している。 日本にはそれだけの器量のある政治家が野党に居ないという証かもしれない。 さらに、ひどいのは、九州電力は太陽光発電の発電量が、原発の発電量を上回るほど普及し、全発電量が需要量を大きく上回ったというニュースがあった。発電量が余り過ぎの状態になったということ。 これは原発がなくても十分やって行けるという証左と言える。 但し、太陽光発電は昼間しか発電しないし、風力発電は風が止めば発電しない。 だから広い範囲で発電を互いにカバーする強力な送電線ネットワークが重要になる。 しかし、現在は送電線は各電力会社の私有物であり、融通が利かない。 それならば、電気事業法を改定して、送電線網は国が管理するように改めればできることだ。 ここで、一つの不思議なことに気付いた。 神戸・淡路大震災も、東日本大震災も、どういうわけか、野党だった政党が、やっと政権奪取して与党になった時に起きている事だ。長年、野党政治家が頑張って、やっと政権を握って、『これから…』と言う時に大震災が起きている。日本には自民党以外の政党は天から見放されているのか?所思えるぐらい、2度も起きたことは事実だ。 自民党(公明党を含む)は、この時とばかり経験豊富な自分たちなら、もっとうまく、適切な対応をすると非難する。素人の野党政権ではダメだと吹聴する。 このデマゴーグに対し、一般国民には説得力がある。 だから野党が天下を握ると、災害対策も遅れて、日本はダメになると国民は信じる。 野党天下は2度の大震災が起き非常に運が悪いめぐりあわせと言わざるを得ない。 そういう流れの中で、安倍一強が生まれ、一色に染まってしまった自民党や公明党は、『我が世の天下』を満喫しているようだ。 あまりの強引さは、いずれ大きなしっぺ返しを食らうことになる。 読売新聞(ネット)によると、経済産業省は原子力分野の新興企業(ベンチャー)の育成に乗り出す。 という記事が載っていた。 有望な技術を持つ研究者らの事業化を資金・人材面で支援するほか、国が保有する原子力関連施設などを提供する。 安価で安全性が高いとされる小型モジュール炉(SMR)など、次世代型原子炉の開発の担い手を増やし実用化を後押しする。 経産省は、コンペなどで選抜された原子力の技術開発に取り組む学生や、若手の研究者に対し、投資家や経営コンサルタントを紹介するなどして事業化を支援する。 起業に成功したベンチャーに対しては、基礎研究から実用化までの技術開発を4段階に分け、段階ごとに開発費の50~90%を支援することなどを検討する。 日本原子力研究開発機構(JAEA)の持つ高温ガス炉といった施設や研究人材を、ベンチャーに無償もしくは有償で提供し、開発の負担軽減を図る。 |
2018年11月20日(火)
日本を変えた
千の技術博(特別展)の見学
東京・上野公園にある国立科学博物館は、明治150年を記念し、日本の工業技術の目覚ましい発展を紹介する『千の技術博(特別展)』を見学するチャンスを頂きました。スマホで写真を撮りましたので紹介します。 入場料は、大人1600円でした。 |
紅葉が始まった上野公園![]() 平日(火曜日)だったが、たくさんの人々でにぎわっていた。 広々とした公園内には、美術館、博物館、動物園と文化に触れる沢山の施設がある。 さすが、首都東京だ! |
![]() 国立科学博物館 上野公園内にある立派な建物、国立科学博物館 館内は、地球館、日本館があり、今回は特別展示がされていた。 |
![]() 入り口付近に蒸気機関車D51(デゴイチ)の実物が展示されている。 高校生時代(約60年前)に、和歌山の紀勢線でも走っていたので、懐かしく思った。 D51は動輪(白く塗った輪)が4個並んでいる。A,B,C,Dの4番目のDを取った呼び方。主に貨物列車を牽引した。客車はC**という動輪が3つの機関車だった。 |
館内に入ると、初めに眼についた看板 ![]() キューリ夫人のことか?と思ったが、「窮理」という事らしい。 内容は左をご覧ください |
![]() 江戸から明治に世の中がひっくり返る大騒動が起きた。 NHKテレビの大河ドラマでやっている「セゴドン」の時代。 政治や世の中の仕組みが大きく変わる中で、先進の欧米諸国の技術を目の色を変えて習得した当時の若き人々の探究心が紹介されている。 |
![]() 長岡半太郎は、世界がまだ「物質というのは、分子からできていて、その分子はどうやら原子からできているらしい」という時代に、「原子は土星型をしており、原子核の周りを電子が回っているのだ」というモデルを発表した人です。 明治37(1904)年のことです。 ノーベル科学者、湯川秀樹の師としても有名です。 |
![]() 度量衡の統一 重さや、長さなどを一つの基準で測ることは、商売や技術の進歩に欠かせない重要な意味を持ちます。 何ごとにも基準や起点(基点)が大切です。 |
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![]() 信号や声や姿、すなわち情報を遠くに伝える技術の開発や進歩は目にみはるものがあります。 電信、電話、ラジオ放送、テレビ放送、ケイタイ、スマホと大変便利な時代になりました。 そのルーツは原始的な電気通信技術が基礎にあります。 |
![]() 明治の通信技術の展開は、今のケイタイやスマホと比較にならないほどの驚きを人々に与えました。 日本はその技術の導入をどん欲に行い、西欧諸国に対する遅れを取り戻していったのです。 |
![]() 右側の赤色点線部は電鍵(キー)と呼ぶトン・ツー信号を発生させるスイッチがあります。 これで電気信号を接・断してトン・ツー信号(モールス信号)を送ります。 左の機械はそのモールス信号を受信する機械です |
![]() 手回し電話機 子供の頃にこれに似た電話機が郵便局にありました。 電話が未だ各戸に無かった時代です。 右横のハンドルを手で回して、受話器を取って、交換手を呼び出し相手に繋いでもらうという時代でした。 |
![]() エジソン蓄音機 瘻管(ローカン)という紙筒の表面に蝋を塗って、針が瘻管に刻まれた溝をなぞることで音が出る仕組み 朝顔のような形のスピーカだったので、朝顔ラッパと呼んだ。このラッパから小さな音で録音された音楽や声が再生できた。 もちろん、今のLPやCDのような澄んだHi-Fiではなかった。 |
![]() 女性は家庭で働くものという固定概念が次第に崩れ、活躍する女性が現れた。 |
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![]() 第26回国際度量衡総会で、重さの単位(キログラム)の定義が変わった。 2018年11月16日 関連ページ参照 |
![]() 磁石は日本のお家芸? 有名なKS鋼、MK鋼、サマリュウムコバルト鋼(通称;サマコバ)、ネオジウム磁石など 特に、最近はハイブリッド車やEVの発電機、モータに使われ、省エネに大きく貢献している。 |
![]() 電球の進化 左は綿糸フィラメント電球 右は竹フィラメント電球 エジソンは世界中から電球に適するフィラメント材料を探した。男山の竹の繊維で作った電球が一番ながく点灯できた。 その後、タングステンに切り替わってゆく。 |
![]() 中島飛行機と言えば、ゼロ戦(ゼロ式戦闘機)。 太平洋戦争で大活躍したゼロ戦のエンジンがこれ! 『栄』 プロペラシャフトの周囲に空冷エンジンを放射状に取り付けて、1150馬力を出すことに成功した。 |
![]() 不思議な形の真空管 一見、タコの頭と足のような奇妙な形状の真空管 この中に水銀を入れ、水銀蒸気で交流を直流に整流する働きをさせた真空管 大電力用ダイオードができるまで、もっぱらこの整流管を使った。 電車は直流モータで走るので、この水銀整流管にお世話になった。 |
![]() 『お結び型」の回転子(ロータ)が回るロータリーエンジン マツダが世界で初めて市販車に搭載したロータリーエンジン。 小さくてもすごいが力が出せることで、スポーツカーに搭載され一躍有名になった。 原油高を迎え、燃費が悪いロータリーエンジンは生産中止になったが、最近、再び見直され出している。 |
![]() 衣・食・住は人間が快適な生活を送る上で基本になる3要件だ。 その『衣」の分野で、綿花や絹などの天然繊維に無い風合いや強さなどをもたらした繊維の革命史 レーヨンに始まり、ナイロン、ポリエステルなど。 最近はゴアテックスや炭素繊維というような機能性材料まで高度な合成技術でいろんな繊維が造られるようなった。 |
![]() 天然繊維の代表である絹を生成する蚕 日本は温暖で多雨の気候なので、桑の木の生育に適した土地だった。 そこで江戸時代から養蚕には力が入っていたが、明治以降、蚕の品種改良で繭の大きさが倍以上になり、大量の絹を輸出し外貨を稼いだ。 |
![]() 伊勢湾台風で大被害を受けたので、気象予報の精度を高めるため、富士山山頂に気象観測レーダを設置した。 レーダ(電波)の発信管; マグネトロン 一個で出力は1500KW 約800km先までレーダ観測が可能になった。 今は、気象衛星の活躍で、お役御免になっている。 |
![]() マグネトロンは食品加熱用にも使われ出した。 電子レンジ用マグネトロン 発振周波数は2550MHz 工業用周波数帯 |
![]() 30MHz以上のVHF帯と呼ばれる電波を効率よく送信・受信するアンテナ 通称;八木アンテナ 太平洋戦争中、敵機来襲の防衛網に使われたが、 昨今はテレビ放送受信アンテナとして屋根に設置された。 受信する方向(ビーム角)と感度が素子数で変わり、VHF帯電波の代表的なアンテナ。 |
![]() ラジオ放送局の送信管 (短波放送用ガラス管) ![]() 現在、NHKラジオ放送局は、最大500KWというとてつもない大電力で送信している。 大出力送信管は右の写真のようなメタル管(9F45)に代わったが、その後、半導体(トランジスタ)に代わり、効率が大きく改善され、また、寿命が長くなり、メンテナンスも容易になった。技術の進歩は驚くばかりだ! |
![]() 通信ケーブル 陸上や海底ケーブルは通信に欠かせない重要な部材となった。 現在、静止通信衛星が赤道上空36,000kmにあり、活躍しているが、電波の往復に時間がかかるので、テレビ中継やインターネット通信はもっぱら海底ケーブル(光ケーブル)に頼ることが増えてきた。 髪の毛より細い光ケーブルで電話を何十万回線も送受できる。 |
![]() このガラス玉は何でしょう? 人間ドックや健康診断や骨折の際にお世話になるレントゲン(X線)発信管の初期のモノ 何万ボルトの高電圧を針先にかけ、金属盤に当てることで、X線が出る。 身体やその他物質の透視に使用する。 |
![]() X線管を使ったレントゲン装置 島津製作所の第一号機 |
![]() いよいよ最後になりました。 今回は、カメラを持参していなかったので、全部、スマホで撮ったもの。これ以外にたくさんのパネルや、現物が展示されている。 これらの展示物の後、どういうものが開発され、人の健康や生活に寄与しているか、パネルで紹介されている。 私たちは日々、安全、安心のもとに、快適な生活を送っている。これも先人の努力と苦労のおかげで為し得たことです。 今後、一層技術開発は進むでしょうが、技術は使い方を誤ると人類の破滅に至る危険性も持っています。 明治150周年を迎える記念として、今回の日本の科学技術特別展を見学することができ、大変有意義でした。 東京に行かれた際には、是非、上野公園内にある国立科学博物館に立ち寄ってご覧ください。約2時間あればゆっくり見学できます。 最後まで、ご覧頂き有難うございました。 |
2018年11月15日(木)
キログラム原器が引退?
モノの重さを測る単位として長い間使われてきたキログラムの定義が130年ぶりに見直される。11月13日からフランスで開催される国際度量衡総会で、従来の国際キログラム原器と呼ばれる分銅が新しい定義に変わる。 あまり、我々の生活に直接影響はないが、分子や原子などを研究する分野に於いては重要な課題である。 キログラム原器が引退というテーマについて、少し詳しく調べてみた。 ■単位とはなにか? 長さを表すメートル、質量を表すキログラム、時間を表す秒、電流を表すアンペア、 熱力学温度を表すケルビン、物質量のモル、光度のカンデラの7つはSI(国際単位系)として定義された単位で、基本単位と呼ばれている。 この中で、現在、質量(重さ)については、「国際キログラム原器」と呼ばれる器物がもととなっており、教科書(資料など含む)などで、それを元にして作られた分銅が作られ、それが質量を計るうえでの基準として生活の中で活用されていると教えられてきた。その「キログラム」の定義が、およそ130年ぶりに今年11月に改定されるということ。 ■計量または計測の古い呼び方;度量衡 度は長さ,量は体積,衡は質量,またはそれらを測るものさし、枡(ます)、秤(天秤)などの器具を意味する。 単位というものは、古来、人間の身体の部位や植物の大きさなどを元にしたものから用いられ始めたとされるが、そうしたものは人によってまちまちであったり、作物も生育状況により変わってくるため、大まかな計測ではそれほど問題にならないが、細かい計測をしようと思うと誤差が大きくなるという課題があった。日本における計量法規の歴史は大宝律令に始ると言われる。 正確に単位が決まっていないと、正しい計測ができないということで、メートル条約が1875年5月20日に締結され、30本の「メートル原器」と、40個の「キログラム原器」が製造された。 単位は、それを決定する約束事となる「定義」、その約束事から実際に基準を作り出す「現示」、そして現示によって作り出された量そのものを示す器物である「原器」の3つが成り立つことで普遍のものとして定められる。そうした単位の中でも7つの基本単位はエリート中のエリートの存在であり、それぞれの量を組み合わせると、別の量を表すことができることが知られている。 ■唯一、原器に頼る存在となっていた「キログラム」 ![]() 長さは長い間、「メートル原器」と呼ばれる捧の長さが1mとされて用いられてきた。 1875年にメートル条約が締結され、欧州を中心に17か国が批准して以降、日本も1885年に加盟。作成された30本のメートル原器のうち、No.22が1890年に日本に到着。 以降、1960年に1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる工程の長さ、 と新たな定義づけがなされた結果、原器としての役割を終え、2012年に重要文化財の 指定を受け、現在に至っている。 このため7つの基本単位の内、キログラムだけ、"原器"という存在が現在も用いられていたが、メートル原器もそうだが、いくら熱膨張係数が小さいこと、経年変化が小さいこと、硬いことなどの要求を満たして製造されたとはいえ、物質である限り、永久不変である保証はどこにもない。 また、キログラム原器は現在、国際度量衡局(BIPM)と呼ばれる独立した組織が仏政府から寄贈されたフランス・パリ郊外にある建物を拠点に、厳重に保管されているが、天変地異などによって、消失したり、変化が生じないとも限らない。 実際、日本のメートル原器は、太平洋戦争の中、空襲の被害による消失懸念から、疎開が行なわれたほか、関東大震災の際にはBIPMに送られていたことから保管場所のほとんどが灰燼に帰すという損害をこうむりつつも、無事であった。 ■なぜキログラムの定義が変わるのか? 問題が大きくクローズアップされたのは1989年。30~40年に一度実施される大元である国際キログラム原器(IPK)と各国のキログラム原器を比べて校正を行なう際に、1889年を起点に、1946年、そして1989年の校正結果から最大50μgほど変化していることが確認された。50μgといわれるとピンと来ないが、指紋1個ほどの質量の変化とされる。つまりありえないはずだが、誰かが一回素手で触れた程度の差といえる。 変化した可能性としては、さまざまなものが考えられるが、その答えは質量が原器同士の相対測定である以上は、誰にも判断がつかない。 これまで永久不変を維持するべく努力がなされてきたわけだが、実際に質量が変化したことも事実であり、これにより代わりとなる質量標準の模索が始まることとなった。 ■現代の技術を結集した新たな定義を検討 さまざまな代替案が出る中、そのうちの1つに、単一原子における原子配列の周期性の単位である格子定数が分かれば、体積に応じて原子の数を決定できる、というアイデアがあった。 実際に、半導体の製造などで高純度化がしやすく、良質な結晶を得やすいシリコン(水晶)を使えば出来るのではないかという話となったが、キログラム原器の安定度(1億分の5)よりも小さな不確かさで格子定数、体積、密度、モル質量などを測定する技術を 有する必要があるほか、シリコン(Si)といっても、実は28Si、29Si、30Siという3種類の同位体が混在し、存在比の評価結果は1000万分の1ほどの不確かさがあり、それらの課題を解決することを目指し、この約30年ほど世界中で研究が続けられてきた。 そこで「アボガドロ国際プロジェクト(IAC)」と呼ばれる国際プロジェクトが2004年に始動。日本もメンバーとして参加し、28Siの純度向上に向けた研究開発を続けてきた。 目標はSi同位体の濃縮。自然界のSiの同位体比率は28Siが92%、29Siが5%、30Siが 3%ほどだが、これを28Siが99,9994%、29Siが0.005%、30Siが0.001%とすることが求められた。 実際にシリコン同位体の濃縮作業に手を挙げたのはロシアの研究機関。 そこでターゲットとする濃度のシリコン同位体結晶を製造してもらい、そこからドイツの結晶成長メーカーの手により、結晶が引き上げられた。製造された結晶は、半導体ウェハのためのシリコンインゴットのような円筒形ではなく、枝豆型とでも表現すればよいような円が2つつながったような形をしていた。この形には理由があり、球を2個取れるような形にする必要があったためだという。 ■日本もプロジェクトに参加 プロジェクト参加各国がそれぞれ得意な技術を持ち寄っていた。結晶格子の格子定数測定はイタリアが担当。測定の結果、不確かさは4×10-9で、キログラム原器の安定性が5×10-8であることを考えれば、この不確かさであれば質量の定義改定に耐えられるものであると判断された。 日本は産業技術総合研究所を中心に、レーザー干渉計による直径の測定を実施。 球状にしたのは、角がないことから、高精度な測定が可能であるためであり、700方位から直径を測定。不確かさは0.5nmで、体積の測定の不確かさは2×10-8で、これにより原子の数が判明することとなる。 ■質量はこれからどのように定義されるのか ところで質量は、m=hf/c2 で決定される。 アインシュタインの特殊相対性理論から E=mc2であり、質量mと光の速度cの2乗で求められる。また、 E=hf でもあり、hはプランク定数、fは光の振動数であることから、光の速さと振動数は決まっているので、プランク定数を決定すれば質量mが導き出されることとなる。 また、プランク定数が決まればアボガドロ定数も自動的に導き出される。 つまり、電子1個あたりの質量は導くことが可能であり、電子と任意の原子の質量比は 高精度で分かっているため、アボガドロ定数を基準として、非常に多数の原子の質量 として1kgを表現できるということとなる。 そのため、プランク定数、アボガドロ定数のいずれで定義しても等価となるわけで、それぞれが独立に測定して、それらを整合すれば、より高い信頼性のもとに定義の改定にのぞめるということとなるわけである。 ■新定義決定に向けたこれまでの動き 定義の改定に向けた動きとしては、2011年。メートル条約加盟国が参加して4年1度開催される国際度量衡総会にて国際単位系の見直しの提案をはかり、具体的な期限を定めず、世界の関係機関に研究の加速が要請されることとなった。 さらに次の総会が開催された2015年には、キログラムのほか、モル、アンペア、ケルビンの4つの基本単位の改定を次回の総会に向けて準備すること、ならびに前回の決議を追認し、具体的なロードマップを示すことが決まり、同年の国際度量衡委員会決議として、2017年7月1日までに公開されたデータを対象とし、キログラムの改定作業に移ることが示された。 2017年12月、各国の委員が集まり、それまでに公開された各国研究機関の比較検討を実施。ここまで精度が出ていれば問題ないという判断となり、最終的な承認に向けた動きとなった。 ■新たなキログラムの計測を実現したのは4か国のみ 新たなキログラムの計測を実現した研究機関は日本、ドイツ、米国、カナダの4国のみ。この内、日本とドイツがプランク定数の測定で、米国とカナダがアボガドロ定数の測定で、それぞれ高い精度を実現した。実際に公開されたデータは7件。そのうち日本は3件に関与しており、うち1件は日本単独のデータである。 こうした長い研究を経て、2018年11月13日~16日に開催される第26回国際度量衡総会(CGPM)にて承認される見通しだ(発効は2019年5月20日予定)。 新たな定義に改定される質量であるが、端的に言ってしまえば、普通の人の普通の生活にはまったく影響はない。だったら、ここまで大騒ぎをする必要もないではないか、という話もあるのだが、キログラム原器の質量に揺らぎが生じた以上、全人類の基準が変化してしまうリスクをそのままにしておくことは、将来的に人類に不利益をもたらす可能性もある。特にナノテク関連の産業や研究分野では、影響がないともいえない可能性もある。 また、今回の4つの基本単位の定義改定により、それぞれの単位の相互性にも変化が生じることとなる。これは分かりづらいが、「キログラムはプランク定数の値を正確に 6.62607015×10-34J・秒(Js)と定めることで設定される」ということであり、また「1キログラムは波長633nmの光子の約3×1035個分のエネルギーと等価な質量」ともいえるし、「1キログラムは波長633nmの光子1個が吸収されたときに約1.05×10-27メートル毎秒の速度変化が生じる質量」ともいえるようになり、定義と等価な複数の表現(現示手段)が提供できるようになることを意味する。 ■お役ごめんのキログラム原器はどうなる? キログラムの定義が変更されれば、キログラム原器もお役ごめんとなる。そのため、今後は高精度な分銅として、活用されることが予定されているという。 また、一般には引き続きそうして計量された標準器などから作られた分銅の提供が 続くとのことで、日本国のキログラム原器が博物館などで一般の人の目に触れること はだいぶ先になりそうである。 |