2020年8月6日(木)
自然に逆らわず、自然と共生する!

 近年、自然災害が世界各地で発生している。従来、考えられなかったような過酷な災害が日常的に起きるので、最近、あまり深刻に考えなくなってきた。大変恐ろしいことだ。

 これらの異常気象や異常現象は、急激な地球温暖化によるものという科学者や気象学者が多くいる。それは17世紀から18世紀にかけて起きた産業革命により、石炭を火力に蒸気機関が発明され、大量の石炭が燃やされ始めたことに端を発する。
 その後、石炭が石油に移り、今は天然ガス(LNG)に移りつつある。これらのエネルギー源は全て、太古の地球上に生息した動植物の化石化した『姿』であり、有史から産業革命が起きる17世紀までの間と、その後の2世紀という短時間の間に人類が消費した化石エネルギーはとてつもない倍数になる。

 《エネルギー文明史より抜粋》
 240万年の人類史において,原始人は周囲の自 然をおもんぱかる慎重な生き方をしていました が,火の発見と利用の「第1次エネルギー革命」 のあと,蒸気と化石エネルギーを手にした「第 2次エネルギー革命」を経て,石油と電気を組 み合わせた200年前の「第3次エネルギー革命」 からは大胆不敵恐いもの知らずになっています。 第2次世界大戦後の大量エネルギー消費時代 を約50年とすれば,240万年に対する50年,すな わち午前0時に人類が誕生したとすると,この 大量エネルギー消費時代は23時59分58秒2の一瞬 に相当し,蒸気と石炭の第2次エネルギー革命 が起こって,人口が10億人の大台にのった1830年 頃の産業革命からは170年余り経っていますが, それでも23時59分53秒9という瞬時にいます。



 
 この化石燃料は、燃やすことで発熱し、その熱を利用して動力を得るのだが、燃焼という化学反応をする際に、炭酸ガス(二酸化炭素;CO2)を発生する。
 現代人が消費する化石燃料は膨大な量にのぼるので、発生する炭酸ガスも膨大になる。炭酸ガスは地球の表面に漂い、地球は炭酸ガスのベールに包まれた状態になっている。炭酸ガスは蓄熱効果(保熱効果)が大きいので、地表の熱を宇宙空間に放出しにくくなる。そのため、次第に地球は蓄熱され気温の上昇につながっているというのがそもそもの理屈になっている。

 その結果、南極大陸の広大な氷原の氷が溶けて、氷山として流出したり、北極海の氷が溶けて、冬場以外は自由に貨物船が航行できるようになった。ホッキョクグマは氷の上で生活できるように適応しているが、氷が溶ければ、絶滅に瀕することになる。
 水産資源の漁場の変化も大きく報じられている。今まで取れていた魚が、操業時期になっても水揚げが殆どなく、漁場がなくなったり、漁場が移動したり、操業時期が大きくずれたりしている。これは海水温の変化と、同時に海流の変化が要因とされている。

 そういう目に見える現象と、最近、起きている異常気象が心配だ。
海水温が上昇すれば大量の海水が蒸発し、上昇して巨大な台風や、記録破りの豪雨が発生する。

 昨年は広島、岡山県付近に集中豪雨が発生し、大きな被害が出た。今年は九州熊本付近を中心に集中豪雨が起き、大きな災害が発生している。その後、長野、新潟、福島県付近でも集中豪雨で、最上川の氾濫や堤防の決壊による大きな被害が出た。被災者の方々は異口同音に、「何十年もこの地に住んできたが、こういう大水は経験したことがない!」と言われている。

 このように地球温暖化により、自然災害が終息に向かうのではなく、逆に年々、過酷化するのだと覚悟することが重要だ。

 ただ覚悟するだけでは、問題解決につながらない。

 そこで、必ず、議論の場に持ち出される解決策は、『ダムの建設』だ。
ダムがあれば、豪雨時の雨量を一時、ダムに貯水して、適宜放流すれば災害が防げるという従来からの発想だ。これはそれなりの納得性がある。
 しかし、よく考えておかなければならないことは、以前のような豪雨であれば、ダムの有効性が発揮できるかもしれないが、今後、起きることが予想されるさらなる巨大豪雨に対して、ダムがどこまで有効か? 疑問を感じる。

 今もなお、議論が伯仲している。
東の八ッ場ダム、西の川辺川ダムだ。
二つのダムは、民主党時代に建設が中止(又は中断)されたダムだ。川辺川ダムは今回の水害を起こした球磨川の上流にある。
ダム推進者側の発言は、
 ①ダムのない治水はあり得ない
 ②堤防をつくるのはお金がかかる
 ③ダムの方がCP(コストパーフォーマンス)が良い
という話になっている。
 ①②③とも概念的には理解できるが、①②③の項目の裏返しの意見も聞いてみたい。
 ①’;ダムに頼らない治水はないのか?
 ②’;堤防工事は、なぜ多額の金がかかるのか?
 ③’;ダムは30年で駄目になると言われているが、それでもCPは良いという理由は?

日本人は賛否両論を並列にして、論理的に議論することを好まない、またはできない人種。だから、力が強い、立場が上の人が大声で言うとその意見になびいてしまう性癖がある。
そろそろそういう、弱点を克服して正々堂々の議論をしなければならない。
ご議論でなく、議論ができなければ意味がない。
議論するのに、『ご(御)』をつけること事態が、厳しく議論することに慣れていない又は躊躇している証拠ではないか。


 さて、洪水対策はどう対応するのが『ベストな解』なのだろうか?
それは、3つの大前提を考える必要がある
 ①自然現象(自然の猛威)には逆らえない。
 ②自然現象はますます過酷化する。
 ③異常気象は今後、頻繁に発生する。


そういう前提に立って、『解(対策)』を考えなければならない。
その対策とは
 (1)雨水(洪水・豪雨)を安全に流す
 (2)ピーク雨量を貯めて平均化する
ことである。

 ダムは(2)の対策であり、その有効性はある程度、納得性があるが、ダムは完成した時が貯水能力が一番大きく、年々、底に土砂が堆積して、底が埋まり貯水力が減ってゆく。30年もすれば、貯水力は期待できなくなると言われてる。

 自然現象は、上の①②③でますます過酷になる中で、ダムは年々、貯水能力が減るのだから、造っても無駄と言える。

 それならどうするか?

現在、各地にある河川をもう一度見直すことが大切だ。
 河川は太古から地表に降った雨が、低いところを流れて下り、それが川になった。
自然にできた川はそのままでは、大雨のたびに被害を生じるので、古人は堤防を築いたり、川幅を広げて対応してきた。

しかし、最近の過激な豪雨に耐えきれないのなら、それのも耐えられるような対策を打つことが求められる。
 ①川幅を広げる
 ②堤防を嵩上げする
 ③川底を浚渫する


特に、まずやれることは③川底の浚渫だと思う。
 最近、川や谷などを見ると、川底に木が生い茂っていたり、大量の廃棄物が放置されていたり、河川敷に運動公園や野球場やゴルフ場を造ったりしている。川は周囲の山々から流れ出る水を集中して流すのが役目だ。本来、公園や遊び場ではない。
 
 豪雨がなければ、通常に水量を流せられれば問題は全くないが、昨年、今年起きたような集中豪雨では、川に求められる安全流量を確保しておかなければならない。
 川に生えている樹木は、豪雨の際は水の流れをせき止め、流木がひっかかったりして、その付近の水かさが上がり、溢れたり、決壊したりする。
 常に、淀みなく水をスムーズに流すことを第一に対処しておく必要がある。
 河川にも、企業経営と同じ整理・整頓・清潔・しつけという4Sが求められている。
 これが本来の河川に求める条件のはずだ!

 ダムの建設は、数十億円から数百億円の巨大土木工事になり、工事期間もかかる。
それが100年程度有効であれば工事費の減価償却もできるだろうが、2,30年で駄目になるという代物では工事費の元が取れない。

 しかも異常気象が頻発し自然災害は今後ますます過酷化する中で、どのような貯水量に耐える規模のダムにすべきかとなれば、ますます多額の費用が掛かる。

 それよりも、少なくとも年に一度、川底を浚渫工事して、川底を深くし、きれいに清掃して、安全許容流量を確保することが大切だ。
 さらに加える対策として、堤防の嵩上げ工事、堤防の強化工事、川幅の拡張工事など、ダムにかける費用を振り向ける
 そうすることで、河川には清流が戻り、アユやその他の魚類も育つ。豊かな景観が戻る。まさに、人と自然(河川)の共生だ。

 コンクリートの巨大な壁、自然景観を破壊するダム、人造物は増やしてはならない。

 (注)現在、中国の三峡ダムが満水で、決壊の恐れもあるというニュースが話題になっている。年々、降雨量が増えている状況下で、今年、決壊が免れても、来年、再来年どうなるかの保証はない。そういう強大な建造物は自然の破壊と、環境破壊と、人名や経済の破壊にもつながりかねない。

このように自然を活かして、自然と共生する対策を考えるのが一番理にかなっている




2020年8月4日(火)
トヨタ自動車の品質の『口伝』が今分かった!

 今から20年ほど前の話になりますが、松下電器の技術社員研修所に勤務していた頃、技術社員の品質管理について、外部講師をお願いしたことがある。トヨタ自動車の品質部門の方にお越し頂き、トヨタ自動車の品質の基本理念についてお聞きした。その内容は、20年経っても、頭にこびりついている。

 トヨタ自動車は、世界NO.1の生産販売をする巨大メーカである。そのことは、自動車という商品が人に便利さを提供すると同時に、危害をもたらすことにもつながるので、トヨタ自動車は『品質』に対して、独自の戒め(いましめ)をもって臨んでいるということであった。

 それが、not『FO・OR』
FOとは、Fire out ;どんなことがあっても、火を出してはいけない
ORとは、Over run;どんなことがあっても、必ず止まること

 普通に考えれば、FOは分かるが、ORは分かりにくい? と思う。
ORより、普通ならエンジンがかかり、必ず走れることが第一優先ではないだろうか。
そこが世界のTOYOTAの奥深いところだ!

 今、自動車は、電子制御(マイコンなど)のおかげで、エンジンや変速機の制御はもとより、燃費改善や、安全運転支援や、近未来では自動運転まで視野に入ってきた。

 今もなお、トヨタ自動車が、FO・ORを掲げているかどうか分かりませんが、堅実経営を行っているトヨタさんのことですから、その基本思想に変わりはないと思います。

 航空機や電車や自動車は移動手段として安全、快適に、かつ移動時間を短縮してくれる便利な乗り物ですが、一つ間違えば大事故や危害を及ぼす危険物になります。

 改めて、このトヨタ自動車の『FO・OR』を思い出し、現在、新型コロナウイルスの蔓延に苦慮している状況に対し、日本政府の方針を考えると、大きな違和感を感じる。

 『3密を避ける』ことと、『Go to travelキャンペーンの推進』という「アクセルとブレーキを同時にうまく踏んでくださいね」という訳の分からない発表はどうなっているのか? 
 疑問を感じる。

 FOが3密の相当するなら、ORは外出を控えることと考えれば分かりやすい。

 FOの3密は分かるが、同時にORの具体策とも言える“Go to travel”は「十分、感染対策をして、感染に気を付けて旅行に行ってください! 旅行費用の支援をしますから!」というのは、やはりどう考えても論理矛盾している。そうまで言わないにしても、「すんなり分かりました。はいそうします」とは誰も言えない。だから、遊びに出かけて、地方にコロナが蔓延してきた。

 それは、政府が3密の感染予防対策で言っていること、観光旅行の推進は、現状では常識的に考えて違和感があるからだろう。
 FO・ORのように、端的に、誰もが、いつも注意できる分かりやすい言葉で表現し、伝えることが大切ではないか。 その点、3密は分かりやすいから結構だと思う。
 
 もう一つ、お盆の帰省の可否についての言い方も、おかしな話だ。
「お盆に帰省するな!とは言わないが、できるだけ感染防止をして行動すること!」
これでは、Go to travelと同じことだと思う。

 ブレーキとアクセルは、必ず片方を踏むことが大切であり、同時に踏み込めば暴走するか、エンジンが停止するか、ブレーキが焼き付くかである。

 今、政府の発信している内容は、『ブレーキとアクセルを同時に踏んで、安全に運転して下さいね』 というように聞こえる。 

 久しぶりに、トヨタ自動車の『FO・OR』を思い出し、そんなことを感じた。

 要は、日常の生活や行動は、国や知事さんに頼るのではなく、各自が賢く対処することに尽きる。これが自粛だと思う。
 しかし、自粛しようと考えている時に、国が、「旅行に支援金を出しますから、どうぞ出かけてください」という話は、やはりおかしい。

 おかしい言葉や、おかしい政策や、おかしい行動には必ず裏が潜んでいることを、見抜いて賢く対応しましょう。




2020年8月2日(日)
コンビニ業界の変調?

 日本はどこに行っても、コンビニと自動販売機(自販機)がある。こういう環境は世界中で日本しかない。
 『欲しいものが、いつでも手に入る』という 他に類を見ない国、日本だ!。

 私たちは、この便利な環境に慣れてしまったため、普段は何も感じないで、こういうものだと思って生活している。しかし、一足、海外に出かけると、平日でも夕方には店を閉めてしまうし、日曜日は閉店が普通である。昼食時に店を閉めるところも珍しくない。

 よくこれで経営が成り立つな?と不思議に思う。日本は、とにかく長時間、店を開けて、少しでも買い物客を呼び込もうと、あの手この手で店の特徴を出し努力してきた。ここにも日本人の真面目さ、誠実さ、勤勉さ等が現れているように思う。それが従業員の過激な労働条件を生んできたことも事実だ。
 
 最近、コンビニ店長(オーナー)と、本部が対立し問題になったというニュースが流れた。人手が足りない、時給が安い、長時間労働の問題などが浮き上がった。
 

 今まで、コンビニと言えば、セブンイレブンファミリーマート、そしてローソンビック3で、さらにたくさんの中小規模のコンビニがある。

 
 
 『コンビニの売上げは店舗数で決まる』と言われてきたので、各社は出店競争をしてきた。
 しかし、同じ商圏の中に、同系列のコンビニが建ち並ぶ状況になり、顧客の共食いを始めた。市街地では、視界の中にいくつかの同系列店の看板を見つけることができる。それほど、店が建ち並ぶ密集状況になった。
 どう見ても、多すぎの感じがあった。自販機も同様である。

これらに共通するデメリットや課題は、
 ①自販機は、電力消費量が大きいこと;電気の無駄使い
 ②コンビニは、売れ残り在庫品の大量処分・廃棄ロス;資源の無駄遣い


 ここにきて、そういうコンビニの状況が、大きく変わろうとしている!

 伊藤忠商事のファミリーマートの完全子会社化はコンビニの経営モデルが行き詰まったことを示した。
 それは脱コンビニを掲げるローソンの「出店目標はもう出さない」という社長の言葉に集約されている。
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛期間中、店内を巡りながら、竹増社長はある事実に気づいた。「かごを持つ買い物客が少ない!」
 
 新型コロナに伴う外食減少や、「巣ごもり」消費の増加で、コンビニには追い風が吹くとみられていた。ところが低価格で品ぞろえが豊富なスーパーに需要が集中したのだ。

 コンビニ業界はセブン―イレブン・ジャパンだけが6月に売上高でプラスに転じた。

 
ローソンとファミマはマイナスを続ける。
ローソンは夕方と夜間の商品強化に取り組んでいただけにショックを隠しきれなかった。このため打ち出したのが「超コンビニ戦略」
 『近くて便利が売りのコンビニではなく、いかにローソンへの指名買いを増やし、売り上げを増やすか。』への転換
 ①無印良品の商品を一部店舗で販売開始。
 ②PB(プライベートブランド)商品を増やす。
 ③出店目標を出すのを今年から取りやめる。

 そもそも2位以下の両社は何が誤算だったのか。

それは出店を優先し、巨大な店舗網に見合う商品供給システムが未完成だったという点にある。
 (戦争で、戦線拡大した結果、兵糧(兵器、物資等)の確保がうまくできなかったのと似ている。)

小売業で話題になる全国47都道府県への進出。
セブンイレブンは2019年の沖縄でようやく実現したが、ローソンは1997年には達成している。ダイエーグループだった遺伝子なのか、まずは出店が大事だった。

 セブンイレブンの場合、弁当や総菜、パンを供給できる体制の構築とワンセットで、店を特定の地域に集中出店する。フランチャイズオーナーの繁栄と顧客満足を起点に多店舗展開したわけだ。このスタートの違いが今も2位以下に対する優位性になっている。

 ローソンはある意味、世間で知られているヒット商品の数はセブンより多いかもしれない。
ロールケーキ、悪魔のおにぎり、バスク風チーズケーキなどで、CMでのイメージアップ戦略もたけている。だが、いくらヒットを飛ばしても日販売上高の差を縮めることはできない。
日常的な食品供給力、欠品の少なさなど基礎体力が違いすぎる。

 セブン流の強さは2社も理解している。
当初は点と点を結ぶように出店しながら徐々に店舗網を広げ、工場も稼働させていくはずだった。だがこのモデルが完成しないまま、出店拡大戦略が頭打ちになろうとしている。
ローソンはゼロベースでつくり直しが最優先課題と言われている。
 ①商品の全面的な見直し
 ②出店はニーズに応じた積み上げ方式で実施
 ③最重要視する経営指標も既存店の利益を基軸

伊藤忠商事のファミマのように、三菱商事がローソンを完全子会社にするのかどうかは不明だが立ち位置は同じだ。

 セブンも今は圧倒的なトップだが、24時間営業や、破棄ロス、ネット企業との競争など課題だらけ。盛者必衰。一部オーナーが離反するなど19年は強みが弱みに転じる可能性がみえた。

新型コロナで、生活や働き方、消費のありようは今後さらに様変わりする。
順調に伸びてきたコンビニは例外なく、存在理由が問い直されている。

 コンビニ最大手のセブンイレブンが店舗改革に乗り出した。
効率経営の代名詞だった全国統一の店作りから、現場の裁量を生かせる方法に改める。
コンビニ業界は大量出店方式が行き詰まり、市場が飽和しつつある。
セブンイレブンの1号店開業から半世紀に近づく中、コンビニ業界は大きな転換点を迎える。

 このコロナ禍で、売り上げが激減した業種と、余り変わらない業種と、販売がプラスになっている業種がある。普通に考えれば、人の動きが制限されたり、動き辛かったりする中で、売り上げが減るのが当たり前だが、ネット販売や、通販や、リモートワークや、自炊などの生活様式の変化により、明暗が分かれている
その変化に対し、ITやネットなどを活用して対応できる業種と、どうしても対応できない業種があり、非常に難しい課題だ。




2020年7月31日(金)
(8/2 一部追記、修正)

いよいよ、明日、PSS社 自動PCR検査器が発売開始!

  Precision System Science Co.Ltd(プレシジョン システム サイエンスが、既にヨーロッパ各国で販売し、コロナウイルス検査に寄与している『全自動PCR検査器』が、明日(8月3日)から、やっと日本でも販売されることになった。

 PSS社は、1982年創業のベンチャー企業で、従業員は236名、資本金は1億3250万円という小さな会社。造っているものは『全自動PCR検査器』で、その特徴は検体を複数個(機種により、検査数が変わる)チューブに入れ、機械に装着し、スタートボタンを押せば完全自動で、試薬を注入し、自動測定し、検査結果を表示する。
 
 操作者(検査員)は、検体を入れ、機械のスタートスイッチを押すだけ。だから、検査員による作業のバラツキによる判定の精度や、検査員の作業の不注意で感染することもない。 誰にでも簡単に、多人数の検査が行える優れもの。こんな機械が日本で既に製造され、輸出されていた。

 PSS社 全自動PCR検査器とはこんなもの。(自動食器洗浄機のような形をしている)
 (注)PSS社のHPより左は中型機
右は小型機
小型機は複数台並べ、パソコン1台で管理できる。

前面のフタ(ドア)を開いて、検体を入れる。

後はスタートスイッチを押すだけ。

2時間後に結果が出る。

 
 (注)検査には、こんな試薬が必要のようだ。
   ・プライマーとして、合成オリゴヌクレオチド、
   ・PCRバッファーとして、DNAポリメラーゼ等


 欧州各国に輸出済みで、各国のPCR検査に大きく寄与し、駐日フランス大使から感謝状が届いている。フランスでは、現地販売会社エリテック社を通じ販売する全自動PCR検査器が大活躍

 《以下、PSS社の記事》
 プレシジョン・システム・サイエンス株式会社(以下、PSS)は、新型コロナウイルス「COVID-19」感染症が引き起こしている世界的な問題に対して、PSS の全自動 PCR検査システム(geneLEADシリーズ)を用いた迅速検査による事業活動を通じた社会貢献を行っています。
(既に500台納入され、検査現場で稼働中。日本では、ゼロ)
 こうした中、フランスに本拠を構えるエリテック社ブランドとしてOEM 供給をしている全自動 PCR検査システムが、フランスの医療現場における新型コロナウイルス「COVID- 19」感染症検査の医療現場で利用されています。
 この度、エリテック社と協力体制を築いたPSS が装置と一体化した消耗品(プレフィルドカートリッジ抽出試薬、付属プラスチック消耗品)を供給し続ける役割を担った社会貢献に対して、ローラン・ピック駐日フランス大使より PSS と田島代表取締役社長宛に礼状を受け取りました。
 
     PSS社 ホームページ  http://www.pss.co.jp/

 現在、保健所が使っているPCR検査は、専門知識と専門技能を有する検査員が試薬の挿入などの作業が必要で、誰でも検査員として働くことはできない。
 しかも、手作業なので、感染防御にも注意が要る。
 保健所はPCR検査業務だけしているわけではなく、医療保険管理業務を担っている。PCR検査は、指定感染症対策業務の一端に過ぎない。
 しかも、検体の受取、管理、輸送、検査作業、結果のまとめ、報告、病院への連絡など、PCR関連業務だけでも膨大な作業が要る。

 以前の行政改革で、保健所要員の削減が行われ、所員の人数も減らされた中で、今回、PCR検査が加わった。その結果、保健所の業務がパンク状態になっている。
 そういう中でも、従来の手作業によるPCR検査を続けてきた。

 一方、ヨーロッパは日本製の自動PCR検査器を使い、効率的に多人数の検査を行ってきた。ここに、日本の医療管理体制の大きな矛盾? 違和感をもつ。

 繰り返すが、PSS社の自動PCR検査器は、検体サンプルを機械にセットし、スタートボタンを押せば、後は自動で遺伝子(DNAやRNA)の増幅と純化作用を繰り返し、約2時間で測定結果が出るという優れもの。 

 日本は、PSS社以外にもタカラバイオ(株)島津製作所など、PCR検査器を製造している。
  タカラバイオ http://catalog.takara-bio.co.jp/PDFS/rc300b_n_3.pdf
  島津製作所 https://www.an.shimadzu.co.jp/bio/reagents/covid-19/index.htm
 
 短時間で、大量の検体(サンプル)を同時に測定できる優れた検査機器を造っている日本が何故、検査の現場で使われないのか、疑問がわいてくる。

 昨日のPSS社の社長の話で、『外国(特に欧州)の医療機器は医療関連ISO(国際品質規格)の規格を満たし、認証されれば、堂々と販売ができる。日本は独自の医療機器品質規格が規定されており、この国内規格に合格するためには、たくさんのデータや、複雑な書類がたくさん提出することを要求され、新規参入者には書類づくりだけでも非常に障壁が高い。優れた検査器を製造していながら自国で販売ができなかった。やっと、その壁(規制の障壁)を乗り越えやすくなり、8月3日から国内販売が開始できるようになった』という。

 (注)ISO;International Organization for Standard ization(国際標準化機構)
 1947年に設立され、現在165か国が参加、取引上の安全を確保する国際的なしくみ 
 品質(ISO9001)、環境(ISO14001)、情報セキュリティ、食品安全、労働安全衛生、
 医療機器など、多岐にわたる国際標準を規定しているマネジメントシステム
 この基準に合格し、認証されれば、相互の取引が安全、安心の元に行えることになる。
 特に、有名になったのは、ISO9001(品質マネジメントシステム)で、その後、環境問題が
 クローズアップされ、ISO14001も注目されている。


 医療機材は、異常が生じれば命に係わる分野なので、絶対安全が担保されなければならないことは当然である。しかし、日本は、PSS社の全自動PCR検査器が医療機器国際品質規格(ISO13485)に合格し、認証取得済みにもかかわらず、医療検査器として公式に販売が認められなかったのは、なぜか? 
 他に行政権益がらみの障壁があるように感じる。 

 『PCR検査が進まない』と、言われて久しい!
やっと、最近になって、検査数が増えてきたようだが、まだまだ十分ではないと思う。
 保健所や、感染病指定病院等に限って検査をしているようでは、検査数が増えにくい。
インフルエンザ検査のような感じで、気軽に、簡単にコロナ検査ができ、陰性なら行動の制限を緩くし、陽性者は隔離や自宅待機などの処置をとる。そうすれば、感染拡大が抑えられる。そうするためには、検査が簡単に行える体制づくりをすることが大前提だ。
 『Go to travelキャンペーン』は、コロナが収まってから、やればいい!

 昔からの名言に『2兎を追うものは、一兎をも得ず』というのがある。感染対策も、経済対策も、同時進させるには、効果的なワクチンがあることが条件になる。よく効く薬がない中では、ま感染者を無くすことに全力投球すべきだと思う。その方が結果的には早く、感染が終息し、その後の経済の活力、立ち上がりも早い。
 日本は、『Go to travelキャンペーン』などの経済対策と、『3密』などによる感染予防策のアクセルとブレーキペダルを同時に踏み込んだ状態では、車は炎上してしまうかもしれない。

 注目されているのは、ニュージーランドのジェシンダ・アーダーン首相の指導力だ。
ニュージーランドで新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられている理由は、その「独特な取り組み」にあるとして、他国が感染症を「抑制」しようとしている中、ニュージーランドは「排除」しようとしている
 ニュージーランドの取り組みで特徴的なのはまず、対応が早かったこと。2月3日の時点で、外国籍の人全員を対象に、中国からのフライト(トランジットを含む)での入国を禁止した。ニュージーランド国籍を持つ人や永住権を持つ人、その家族は入国が許されたが、14日間の自主隔離が求められた。

 2月28日に同国初の感染者が確認されると、すぐに入国禁止対象国を拡大。さらに3月19日には、自国民や永住権保有者以外は、全世界どの国からも入国を禁止とした。
 ニュージーランドは、海外からの観光客数が年間で390万人に達する観光大国ではあるが決断は早かった。
 また、全面的な入国禁止に先立ち3月17日、感染予防策による経済的打撃への対抗策として、ニュージーランドGDPの4%に相当する121億NZドル(8000億円弱)規模の経済対策を打ち出した。

 ニュージーランド屈指の伝染病学者である、オタゴ大学のマイケル・ベイカー教授は、「毅然とした態度で脅威に対峙した」とアーダーン首相を評価。
 
 アーダーン首相はこれまで、新型コロナウイルスに対する政府の戦略について、声明文、記者会見、インタビュー、SNSなどを通じて国民に説明し、理解を求めてきた。その際には  一貫して、はっきりと分かりやすいシンプルな言葉を使い、常に落ち着いて信頼感を保ちつつ、フレンドリーな伝え方をしてきたという。
 アーダーン首相は、コロナウイルスとの闘いを「マラソン」と表現し、長くなるとの考えを示しているという。


 もとに話を戻すと、
 全自動PCR検査器は、一刻も早く導入すべきだ。 やっと動き出した感じがある。
 その背景に新規参入組に対する障壁を高くし、業界の既得権益を擁護するようなことがあるのなら許されない。


 医療検査には2種類の分野がある。
 ①生体検査
 ②検体検査

 生体検査とは、患者の体に直接、施術して何かを検査したり、測ったりする機器で、直接体に負荷をかけるため、非常に厳しい検査項目をクリアしなければならない。
 胃カメラや、CTやMRI等
測定中に体内で何か異常な動作が生じると、命にかかわるからだ。

 検体検査とは、尿や、血液検査などのように、検体に試薬等を加えて反応させ調べる。
この検査は特に直接、体に負荷をかけないので、比較的、基準も緩やかだ。

 PCR検査は、鼻の粘膜や、唾液等を採取して、それを試薬に浸し、PCR検査器内で、プライマーなどの試薬を加えて、庫内の温度を100℃近くに上げ、その後、50℃近くに下げ、さらにゆっくり72℃に保って、その後、再び100℃近くに上げるという庫内温度の上げ下げを30回ほど繰り返すことで、ウイルスがあれば、数億個の塊に成長させ、検出する。
 機械の説明は、以前の7月18日の記述も参考にして頂きたい。

 ただ、このDNAやRNAや遺伝子等の仕組みは、非常に専門的な話になり、何回読んでも理解ができないところがたくさんある。われわれは専門家ではないので「そういうものだという概念が分かればいい」と自分で納得している。

 【PCRについて】(少々専門的なので、スキップして頂いても良い)
 PCRとは、下図の鋳型二本鎖DNAを93~95℃に加熱すると、一本鎖になる。その後、約55~65℃まで冷却すると、フォワードプライマーは鋳型アンチセンス鎖に、リバースプライマーは鋳型センス鎖に再度二本の鎖となる。その後、DNAポリメラーゼの最適温度域の72℃まで温度を上げ、鋳型一本鎖DNAをプライマーを起点に伸長複製する。この既定の3温度域(変性、アニーリング、伸長反応)を素早く加熱・冷却し、既定温度を保持し、さらに規定数までの反復を繰り返す機器がサーマルサイクラーである。

 
 装置内の加熱・冷却には、ペルチエ素子(半導体)を用いることが多い。
 
《PCR反応の説明》
 複製DNA(2本鎖)は、機器に設定したプログラムに沿って次のサイクルに入り、再度、変性・アニーリング・伸長反応を繰り返し、1サイクルで2倍に増殖する。PCRではこの操作を25~40サイクル繰り返す。

 1) 熱変性
試料中の鋳型DNAは、2本鎖DNAのままでは伸長できない。2本鎖DNAは、94℃で30~60秒間の加熱し、1本鎖DNAに変性する。変性温度は93℃でも充分であるが、94℃のほうが無難である。また、標的配列によっては95℃に上げたほうが良い結果を生む場合もある。さらに高温で数秒の変性を行う方法もあるが、高温域では酵素の活性低下も考慮しなくてはならない。通常は、94℃30秒で充分である。

 2) アニーリング(焼戻し)
熱変性により1本鎖になった鋳型DNAにプライマーが接合し、2本鎖を形成するプライミング反応を起こすステップであり、通常、アニーリング温度はプライマーのTm値以下に設定する。アニーリング温度を下げ過ぎると、プライマーの非特異的なアニーリングが起きやすく、結果として非特異的増幅が増え、標的配列の増幅が阻害される。アニーリング温度は高いほうがプライマーと鋳型DNAとのミスマッチが減少し反応の特異性が高くなる。しかし、高過ぎると標的配列も増幅できなくなる。

* Tm値(melting temperature): 二本鎖DNAの50%が解離して一本鎖となる温度で、塩基配列の構成と塩基数および反応液の塩濃度などにより決まる。

 3) 伸長反応
プライマーを起点とする伸長反応は、DNAポリメラーゼによる鋳型DNAの連鎖的複製酵素反応である。通常のPCRでは、伸長反応は72℃で1分間ほど行うことが多い。

 4) サイクル数
サイクル数は25~40サイクルに設定する。酵素反応であるからサイクル数が多過ぎるとDNAポリメラーゼ活性の低下、基質成分の減少、反応副産物の蓄積による伸長反応阻害および増幅DNA同士の再会合によるプライミング効率低下などを原因とした反応低下が生じるため、必要以上にサイクル数を増やすことは避ける。また、過剰なサイクル数では非特異的増幅(異種類のDNA)を生む場合もある。

《PCRに必要な構成物》
 1) プライマー
鋳型DNAに特異的な18~30塩基ほどの相補的塩基配列を持つ合成オリゴヌクレオチドで、増幅したい領域を挟むようにフォワードプライマーとリバースプライマーとの2か所(一対)設定する

 2) PCRバッファー
反応に必要なものとしては、酵素:DNAポリメラーゼと、基質(4種の塩基:dGTP、dCTP、dATP、dTTP)、Mg2+(一般的に2mMの塩化マグネシウム)、最適pH(pH7.5-9.5)を保持するBufferが必要である。また、カリウムイオンが酵素活性を高めるため50mM程度を添加する場合があるが、75mM以上になると阻害する。
 これらのPCRに必要な試薬(プライマーと鋳型DNAを除く)はすべて装備された試薬キットが市販されている

PCRに必要な機器
 1) サーマルサイクラー
PCRでは、変性温度、プライマーとのアニール温度、伸長反応温度の保持と3段階の温度が必要で、これらを1サイクルとした温度の上昇・下降を素早く移行するサーマルサイクラーが必要である。DNAポリメラーゼの酵素特性を活かすためには機器の温度作動は急速さが求められる。さらに、蓋部分を100℃付近まで高温化することにより反応液の蒸発を防止する機構が付けられ、反応液を20~25µLに少量化することが可能となった。
 サーマルサイクラーは、サーモグラジェント機構を備え、一台で機能的には3~6反応系を同時に独立して進行可能な機種もある。現在では、特殊機能を求めなければ50万円を切る機種も市販されている。サーマルサイクラーは、サーマルブロックと呼ばれる金属板でプログラム通りに反応チューブを急速に加熱・冷却する機能を持つ。金属板にはヒーターペルチェ素子などがついており的確に反応液の温度を上下させる。

 2) クリーンベンチ簡易型
試薬の調製、混合時における増幅産物のキャリーオーバーによる汚染防止策としてクリーンベンチは必須である。ただし、感染微生物のDNA抽出など感染の危険性を防止するものではないため、卓上型の簡易なクリーンベンチで充分である。なお、UVランプの装着は必須である。また、作業前後にはUV灯の点灯、次亜塩素酸ナトリウム液やDNAZapもしくはDNA AWAYなどでの内部清拭が必須である。

《プライマー域の設定》
プライマーはPCRの可否を左右する重要な因子である。市販の既定品以外のプライマーは通常、塩基配列を記載し合成を依頼する。類似したものにプライマーとプローブがある。プライマーは3’端にOH基を有し伸長起点となるがプローブは3’端がブロックされているため伸長できない。両者はいずれも鋳型DNAおよび複製DNAの1本鎖の相補的塩基部位にハイブリするオリゴ塩基である。
 DNAのPCR増幅領域は、数塩基と短いものから数十キロ塩基と長いものまである。また、遺伝子検査の目的によっては増幅領域内の1塩基の変異を検索するものや、生物種間の塩基変異を検索する、もしくは遺伝子の欠損や挿入を検索するなど目的はさまざまである。プライマー領域については、Tm値や塩基構成などの諸性質を調べるが増幅領域内部の調査は手薄なことが多い。
 増幅領域のGC、ATの塩基構成は、PCRの条件設定、増幅酵素の選択、増幅反応液への添加試薬を決める重要な因子である。最適なPCR条件や試薬選択の参考となる情報チャートが各試薬メーカーより提供されている。


 PCR検査器は上記のように、サンプルの入ったチューブにプライマーやポリメラーゼという試薬を注入し、庫内の温度を上げ下げするという至極簡単な機械なので、数百万円から1千万円程度で買える。全自動機で、一度に20検体ほど検査できる機械でも1千万円程度で買える。

 検査するには、プライマーや、DNAやRNAを増やすための肥料になるようなポリメラーゼなどの試薬が必要になるが、これも、100回分(100人分)で12万円程度、1000回分で115万円程度だから一人当たり1200円ぐらいになる。PCR検査器の償却や、機器のメンテナンス費用も入れても、台数を増やすと、3000円程度で検査を受けられるはずだ。
 機械は繰り返し使える。試薬は検査の都度、必要になる。
 
 現状のように保健所でPCR検査専門家が、手作業で一検体を機械に入れて操作するとなれば、一検体当たり2万円ほどかかるかもしれない。時間と人手の無駄遣いになる。
この方法では、検査数が伸びない。


 しかも最新のPSSのPCR検査器は、唾液で検査ができるということなので、サンプルを採取する側も、検査を受ける側も非常に負担が少ないし、何より、採取者の感染の心配がなくなる。


 アベノマスクの追加8000万枚分の代金(247億円)を全自動PCR検査器の購入費に当てれば、何台買えるか?

 
アベノマスク
配布完了  全戸配布  1.3億枚   260億円 マスク代;184億円
事務費;  76億円 
 @141円
 計画中 施設
妊婦向
8000万枚
 256万枚
 247億円  マスク代;119億円
 事務費;  31億円
 
合計;150億円
 @141円

 各戸に2枚のアベノマスクは我が家にも届いたが、保管したままになっている。
いずれ『こんなことがあったなぁ』というレガシーの証拠品として置いておく。

 アベノマスクは
 ①サイズが小さすぎるので、鼻をカバーできない
 ②ガーゼは、ウイルスの防護に役立たない(専門家の実験により証明されている)
要は、アベノマスクは役立たずで、税金の無駄遣いをしただけ。全く評価に値しない。
 

今後、配布計画のある施設向け・妊婦向けのマスク代は150億円かかる。(上表)
 (余りにも、評判が悪いので、配布を見直すという話もあるようだが、・・・)

 この資金を、全自動PCR検査器購入に当てることを考えてみる。
自動PCR検査器が1台1500万円としても、1000台も買える。
全国に、PCR検査センターを設置し、5万件/日程度の検査を実行する。とにかく、検査数を思い切って増やすことから始めることに尽きる。

 出かける前には検査!
 帰って来た時は検査!

これぐらいやれば、安心できる。

 同じ金(税金)を使うにも、生きた使い方をしてほしい。
 何故、こういう金の使い方を考えないのだろうか?
 政府は、完全に思考停止しているのでは?




2020年7月26日(月)

PCR検査を増やすことに賛成か? 現状維持か?
(二次感染拡大の対応について)

 コロナの感染流行が拡大する中、4連休が終わり、連休中にたくさんの人が外出した。

 また同時に、政府の肝いりの経済対策として『Go to travelキャンペーン』が具体的な感染防御策もとられず開始され、国内の観光地には、たくさんの人が行き来した。
 (感染防御策は、手洗い、マスク、3ミツを避けるという今までの対策のみ)

 人が動くと、このコロナウイルスは必ず感染拡大が生じる。連日、過去最多の感染数というニュースで持ち切りだが、一次感染の時と違い、何かあまり危機感を感じないのは、自分だけだろうか。それは、感染しても重症(重篤)化する率が低くなったことが報道されて、心の緩みが生じている証拠だと思う。

 現状はコロナウイルスとの戦い中であり、戦時下である。一時の油断も許されない時だ。

 東京は既に二次感染の最中で、近郊県にも拡大中だ。それが『緊急事態宣言』が解除され、政府が経済対策に重点を移し始めた途端に、二次感染が拡大してきている。
 自公政府は眼下の経済対策の方が優先度が高いような気がする。どうやら、日本観光業協会から多額の政治献金をもらっているので、観光地への配慮が欠かせないのだろう。

 コロナの感染が落ち着き、安全安心な状態になれば、観光旅行やツアーは大賛成だ。
小生も、おいしいものを食べに鳥羽や淡路島に行きたいと計画中だが、今それを実行しようとは思わない。

 何としても行きたいという人は、PCR検査を受け、陰性を確認できた人が証明書を持参して行くことを義務付けるべきだ。
 PCR検査は3000円程度で行える。『Go to Travel』の支援金から差し引いて払えばよい。

 PCR検査は唾液でも検査が可能になった。喉の奥の粘膜を採取しなければならない時は、検査を受けるのが容易ではなかった。鼻に細い綿棒?を差し込んで、グリグリやられると、くしゃみが出る。検査員にまともに飛沫がかかる。検査員の感染リスクが高くて、完全防御服装でしか対応できなかった。

 しかも、感染症予防法で保健所だけに縛られていたので、検査を受ける人数が絞られてきた。要は、保険種の対応能力で検査数が限定されてきた。最近、感染指定病院、医療機関でもPCR検査が受けられるようになって、ようやく、大阪府内でも一日1000件以上検査ができるようだ。

 しかし、『Go to travel』を利用して出かける人はまだ検査の対象にはなっていない。

さて、もう少し突っ込んで考えてみよう。
 まず、コロナウイルスの特徴であるが、感染しても無症状の人が80%もいることだ。
インフルエンザやノロウイルスは感染すれば、体のだるさや、発熱や、のどの痛みや、咳や、嘔吐や、下痢などの症状が必ず出る。だから感染したことが分かる。

 コロナウイルスは感染しても、本人は何の症状もない人が8割も居る。これが質(たち)の悪いコロナウイルスの特徴と言える。
 
 感染無症状者は、元気だから、大声で話をし、飲み会にも行き、何の不都合もない。
そして、次々と感染者を増やしてゆく。
 こういう人と接触した人の内、20%が発症する。発熱や、だるさや、味覚異常や、咳や、息苦しさなど症状が出る。症状が出れば、保健所(近隣の病院など)に連絡して、PCR検査を受けることになり、陽性と判定される。
 
さて、この陽性者の扱いがどうなるのか?
陽性者の数が多数にのぼるか、少数で収まっているかによって対応が変わる。
陽性者が少数の場合は、都道府県の指定の病院に入院するか、契約した貸し切りホテルに2週間程度缶詰めになり、体内のウイルスが陰性になるまで宿泊しなければならない。
 契約ホテルが満杯になった場合は、自宅で療養することになる。自宅待機も病状が収まって、PCR検査が陰性になるまで、自宅療養が続く。

 ここで、感染者の内、症状が出た20%の内の5%が重症(重篤)化すると言われている。こうなれば、高度医療が整った病院に入院し、酸素吸入や、さらにはEKUMOと言われる人工呼吸器をつけなければならない。肺の機能が著しく傷つき、幸い回復しても長い間のリハビリが必要になると言われている。

 こういう治療がなされるわけだが、理解できない点がある。
なぜ、日本ではPCR検査を必要な人全員に受けさせられないのか? という疑問だ。
 唾液のPCR検査法では、擬陽性と判断される割合があり、喉の粘膜をとって調べなければ正しい判断ができないとも言われる。しかし、検査は100%正しい結果が出なくても、7、8割の確率で判断できれば検査の意義は十分ある。何もしない方が誤っている。
 簡便法で、唾液で、自動PCR検査器を使って、ドンドン検査をすることが重要だと思う。

 識者や専門家の中にもいるが、PCRで陽性者がたくさん出れば、病院やホテルが満杯になり、医療崩壊して手に負えなくなるので、検査は必要な人に限ってやる方がいいという。

 この意見は何かおかしい!と思いませんか?

 検査は陽性者を見つけて、早く隔離し、他の人にうつさないために行うものであり、検査をし隔離しなければ、感染者の80の人は健常者と同様なのだから、他の人にうつしまくることになる。感染者をそっと隠しておく方が、医療崩壊につながらないと言う言い方はどう考えてもおかしい。
 
 医療崩壊しないように、PCR検査数を制限しているという考え方は本末転倒以外何物でもない。

 お隣、韓国は徹底したPCR検査を実施して、陽性者を隔離して、二次感染を抑え込みつつある

 日本にPCR検査器がないのなら、仕方がない。
日本には他国に輸出している自動測定ができるPCR検査器まで製造している医療先進国だ。それなのに、感染者を見つける作業を自ら放棄している。

 感染者を野放しに放置する方が、感染爆発を起こし、何倍か、感染者が増えて、重篤な患者も増え、本当に医療崩壊することを危惧している。

 現状の感染者の病状が以前のように重篤化する人が何故か分からないが少ないため、最悪を想定した取り組みから目をそらせているような気がする。

 もう使ってしまった金のことを言っても仕方がないが、1軒に10万円支給や、アベノマスクの費用など、無駄な税金を使い、本来の医療機器の充実や、感染防護具の充実や、医療関係者への給付や、医療関係病院等への支援金を十分手厚く行うことが今の課題でしょう。
 『Go to travel』に当てる1兆円を超える規模の予算を、今は医療に回し、コロナが終息してから、じっくり安全、安心のもとで楽しい旅行をしたい。

早く伝染病予防法の改正や、まっとうな施策を打つように国会を開いて対応して頂きたい。




2020年7月25日(土)

赤外線と、紫外線の活用
(血糖値センサーと、コロナウイルス対策)

 私たちの目は『赤・橙・黄・緑・青・藍・紫』の七色の光を感じる(見る)ことができます。
これを可視光線と呼びます。綺麗な虹がその象徴ですね。
 赤いものは、赤い色の波長を反射し、それ以外の波長を吸収します。目には赤い色の波長だけが入り網膜を刺激して、赤いと感じるのです。
 真っ黒の色は、全部の波長を吸収しますので、網膜は光を感じませんので、黒(暗い)と感じます。

 見えるということは、目の網膜が3600Å(360nm又は0.36μm)~7600Å(760nm又は0.76μm)の範囲の波長に感じるということです。
 この可視光線が全部目に入ると、色を感じなくなります。明るい昼間の光です。
綺麗な景色や風景や、絵画や写真にはいろんな色が見えますが、これは可視光線の一部が反射され、残った光が吸収されて、目に入るためです。色の感じ方は今回の主テーマではありませんので省略します。

 以前は微小な長さの単位にÅ(オングストローム)を使っていました。1Å=1×10-10のことです。
 
3600Å=3.6×103×10-10m=3.6×10-7m=3.6×10-6×10-1m=0.36μm=360nm
最近、国際単位系が変わり、
は使えなくなり、nm(ナノメータ)又はμm(マイクロメータ)を使うようになりました。

 野生動物は、人間より広い範囲の光を感じる生物もいます。特に夜行性動物は闇の中で赤外線を感じて狩りをします。生物は体から体温に相当する赤外線を常に出しています。最近、コロナで体温を測る非接触型体温計もその応用例です。

 光は電磁波の一種で、電磁波は波長により下図のようないろんな特徴を持っています。
 
 
 波長が短い方から順に、ガンマ線(放射線の一種)、X線、紫外線、可視光線、赤外線、電波となります。波長が短いほど、エネルギー密度が高く、モノを透過する力が強くなります。X線がレントゲンに使われて、体内の骨などの検診に使用されていますね。
γ(ガンマ)線は、ウランなどの放射性物質が原子核崩壊する際に、α線、β線、γ線という放射線を出しますが、その一つです。ガンマ線は非常に波長が短くて、岩石などの鉱物も透視することができます。勿論人の体などは突き抜けて透過し、細胞破壊をします。

 今回は赤外線と紫外線について考えます。

 紫外線(ultraviolet)は、紫色より波長がさらに短い光(電磁波)です。
 この応用例は、エネルギー密度が高いことを利用して、殺菌(滅菌)器や、肌の日焼けを促進する健康美容器具などに使われます。最も身近なモノは、蛍光灯です。
 最近、消費電力が小さく、寿命が長いLEDが多く使われるようになりましたが、その前は、電球から蛍光灯になり、長い間使われてきました。この蛍光灯の管内には、水銀を一滴入れています。蛍光灯は放電管で、水銀蒸気がアーク放電を起こすと紫外線が出ます。この紫外線が蛍光管の内壁に塗られた蛍光塗料を発光させるという仕組みを使ってきました。蛍光管は直管と丸管がありますが、原理は全く同じです。ガラス管は普通のソーダガラスを使いますので、紫外線はガラスを通過し、菅外には出ません。
 血痕に紫外線を当てると、普通の光線では見えない反射光が見えますので、犯罪捜査に活用されることもあります。

 この水銀の放電で生じる紫外線を活用したものとして、紫外線を透過する石英ガラスを使った殺菌灯(滅菌器)があります。
 太陽光線にも一部紫外線が含まれ、特に北半球は5月から6月頃、一番強くなる季節ですから、日焼けによって皮膚が傷み、皮膚がんを発症することもあります。

 さて、赤外線(infra red)は文字のとおり、赤色より長い波長を持つ光(電磁波)です。
 赤外線の内、波長が長い遠赤外線は近づくと熱く感じますので、熱線とも呼ばれます。
 
 
 炭火に当たると、ほんのりと暖かいですね。これは遠赤外線の効果です。

 赤外線の内、波長が短いものは近赤外線と呼ばれます。
最近の研究で、この赤外線の応用が広がってきました。

 テレビやエアコンなどのリモコンや、スマホやカメラのオートフォーカスや、非接触体温計にも使われます。これは赤外線ダイオードというごく小さな半導体ができたことにより、安くなり、たくさんの商品や測定機などに利用されています。
 赤外線の利用法には
 ①物体から放射される赤外線を感受して温度を測定するもの
 ②赤外線を出し、反射光を測定するもの
があります。

 近年、消費者の選択が厳しくなり、ミカンや果物やスイカなど糖度が高いものが好まれるようになりました。生産者は出荷する際に、自動糖度選別機で、糖度が何度以上あるモノしか箱詰め、出荷できなくなりなりました。だから、店頭の果物はおいしくなったのです。
低い糖度のものは、ジュースや缶詰用として使われます。

 赤外レーザーは、光の波長と位相が均質(コーヒーレント)であり、拡散せず直進する性質があります。これを利用して精密な測定ができます。そのため、CDプレーヤの光ピックや測量用距離測定器や、車の自動運転装置等に利用され、その用途が広がっています。


 今回は、血糖値測定器の夢のような話に触れたいと思います。
 今の血糖値測定器は、指に細い針を刺し、ごく少量の血液を絞り出して、それを血糖値計の測定部に沁み込ませて、微量の血液に赤色レーザー光線を照射して測定しています。血糖値検査は、食事毎に測定するため、煩わしく、少し、ピリッと痛い思いをします。
下の写真は現在の血糖値計(TERUMO製)の一例です。

 
 ・本体(測定部)
 ・チップ(血液吸入口)
 ・針刺し器具
 ・針
 ・アルコール消毒布

測定チップ、針、アルコール布は使用後、医療廃棄物処理
します。








左の写真の測定器は指先挟むだけで正確に血糖値が測定できる優れモノです。
 ライトタッチテクノロジー社が開発中の
非侵襲(しんしゅう)血糖値センサーです。

 血液を絞り出す(採る)ことなく、赤外線レーザーを約5秒照射するだけで正確に血糖値を測定できるものです。
 測定精度は、ISO測定精度をクリア
 ISO 15197に定める測定精度(血糖値75mg/dl未満では±15mg/dl以内、75mg/dl以上では±20%以内に測定値の95%以上が入っていれば合格)の範囲であること


 赤外レーザーの波長を最適化することで、指の毛細血管を流れる血中の物質を高精度で測定する新しい技術です。
この測定器は2022年に商品化が予定されていて、現在、開発が進められています。
この会社のURLは、 https://www.light-tt.co.jp/

 この商品により患者の負担が大きく軽減されます。
また、医療廃棄物(血液が付着した消毒布、針、チップなど)がなくなることも大きなメリットです。


もう一つの事例を紹介します。
これは紫外線によるコロナウイルス殺菌の話です。

 『新型コロナウイルス』との共存が迫られるウィズコロナ時代において、“光明”となり得る技術の実用化が近づいている。その技術は、波長が222nmの紫外線によるウイルスや細菌の不活化(感染力や毒性の消失)すること。

 
222nm紫外線は、「数分の照射でウイルス・細菌をほぼ不活化」
 ② 「人体に照射しても影響がほとんどない
という夢のような話です。

 2020年4月21日、米コロンビア大学教授で放射線研究所所長のデービッド・ブレナー(David Brenner)氏らのチームが222nm紫外線を人の活動空間に照射することで、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制できることを確認した。
 従来、紫外線によるウイルスや細菌の不活化は、254nm紫外線が主に使われていた254nm紫外線は人体に照射すると、皮膚がんや白内障を発症させる恐れがあり、人がいない空間でしか使えなかった。

 人体に無害な222nm紫外線であれば、病院や学校、オフィスなどありとあらゆる公共・商業施設で常時照射できる。しかも、222nm紫外線の不活化効果は、254nm紫外線と同等水準が見込める

 222nm紫外線でウイルス・細菌を不活化できるのは、ウイルス・細菌の遺伝情報を担うDNA(デオキシリボ核酸)や遺伝情報に基づいてタンパク質を合成するリボ核酸(RNA)に損傷を与え、複製による増殖能力を失わせるからである。

 DNAやRNAは、大ざっぱにいえば、塩基・糖・リン酸から成る化合物(ヌクレオチド)が鎖状に結合したもの。この鎖上において、チミン塩基(T)同士やシトシン塩基(C)同士、またはTとCが隣り合う部分では、紫外線によってこれらの塩基が結合し、シクロブタンピリミジン2量体を形成する。そうなると、DNAを複製できなくなる。これが、不活化の原理である。254nm紫外線による不活化も、同じ原理を利用している。

 
光源モジュールの製品化を前倒し
 
222nm紫外線の光源を一手に開発しているのは、日本のウシオ電機
ウシオ電機は世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受けて計画前倒しを決断。課題だった量産技術を急ピッチで確立し、20年9月の量産出荷開始にめどを付けた
 既に国内外から多くの問い合わせが寄せられているという。
 (日経電子版より)



2020年7月22日(水)
「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」

山口 周 著
光文社新書
760円+税

・論理的思考・MBAでは戦えない!
・経営における「アート」と「サイエンス」
・「直感」と「感性」の時代
・「正解のコモディティ化」「VUCA」「自己実現的消費」
・複雑化・不安的化したビジネスで勝つためには?

  コロナ禍で、自宅で巣もごり中、共感でき、印象に残る本に出会ったので紹介する。
この本は日本の人事部「HRアワード2018」(書籍部門)最優秀賞を受賞している。
最近よく売れるマネジメント分野の一冊で15万部突破となっている。

 タイトルは「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」となっているので、かたぐるしい内容のように感じるが、読み進めると『なるほど!』と分かりやすく、共感できる内容なので、ドンドン、ページが進む。

 的外れをお許しいただき、読後感を独断でまとめると次のようになる。

 大企業の経営者や幹部リーダ(候補)は、MBAを取得することがエリートとしての証であった。今もなお、そういう会社があるかもしれないが、最近、MBA保有者が多い会社が好業績を上げているかと言えば、全く相関がない状況になった。以前は企業の幹部候補生が大挙、アメリカに行き、または国内の大学のMBAコースに留学して学んだ。
 
 MBAに代表される経営マネジメントの科学的手法、経営手法や、マネジメントやマーケティングのロジックを学修することは結構なことで、知らないより知って有効に活用できる方が競争に有利な手が打てる。

 本書によれば、MBA保有者が増えれば増えるほど、科学的・論理的な思考ができるので、そこから導き出される『解』はみな同じことになる。なぜなら、科学は再現性があるから。自社と他社の『解』が同じになれば、互いの経営戦略も同様になり、自社の競争優位はなくなる。

 ましてや、現在社会のように混沌とし、常に変化している状況では、いろんな確固とした条件やデータが必要になる科学的、論理的な手法では『解』を導き出すための条件やデータが常に変化するので、方程式が成り立たない、すなわち科学的思考が役に立たない。
 
 日本にはこういう経営をしている会社がまだ、たくさんある。その結果、失われた30年と言われる無作為な時間を消耗してしまった。
 
 戦後の復興、そして、“Japan is No.1”と言われた1990年までの良き時代は、経営目標が明確に存在した。それは、アメリカという大きな市場が控え、アメリカに追いつき、アメリカを追い越せという大義(目標)があった。日本の国内市場規模はまだ小さかったが、次第に大きくなり、良いものを安く造れば売れるという時代であった。

 この単純なマネジメントをまじめに着実に取り組んできた結果、日本は世界第二の経済大国に成長した。その結果、もはや日本は先人のアメリカから学ぶものがなくなった。

 そこに、経済のグローバル化が進み、自由に金融や商品や労働力が行き交う時代に入った。しかし、日本のエリート(経営層や経営幹部)は従来の成功体験にしがみつき、新しい次の時代への舵を切ることができなかった。

 相変わらず『良いモノを安く』というコンセプトが幅を利かせていた。『良いものを安く』は絶対的に正しいことであり、誰も否定できなく、決して間違いではない。
 しかし、この理屈を推し進めるには、市場が拡大していることが大前提になる。世界の市場は未だ開拓余地があったが、次第に埋め尽くされ、グローバル競争の中で、コスト競争が激しくなり、賃金の高い国の商品力(コスト)は、安い賃金の国や開発途上国との競争に勝てなくなった。アメリカや日本がその典型だ。

 それでも、日本のエリート(経営者)は、相変わらず売上前年比〇〇%アップを経営目標として成長路線に取り組んできた。
 その挙句に、未達になった決算を粉飾し、従業員解雇など、いろいろな社会問題となるような事件を連発させてきた。
 
 社会の変化に対して、やっていることが以前と同じやり方であり、できないことが分っていながら目標を設定して進めるという経営の常習性を続けてきた。

 これは日本ばかりではなく、先進各国共通の課題であり、現状の資本主義の行き詰まりの結果でもある。それだけ社会が成熟化し飽和してきた証拠でもある。

 そこで、本書の本論になるが、世界のエリートはMBAの科学的、論理的な経営手法から脱して、『美意識』を磨くようになったと言う。ここでいう『美意識』という意味がピンと来ないが、読み進めると次第に理解できる。

 世界市場を相手に競争しようとすれば、MBAの知識やスキルは大切ではあるが、先に述べたように、市場や社会が急速に変化する現状では、MBAの方程式に当てはめることができないと言える。方程式の各項にいれるデータが常に、不規則に変化する状況の中で、この手法は従来のような正解を出し得なくなった。

 こういう状況において有効なのは、柔軟な発想で自由に考えることができる思考であり、それを鍛えるのが『美意識』だという考え方だ。
 美意識には正解がない。各人の感受性により判断が変わる。いわば、直感で決める。

 MBAによる科学的な経営手法は、条件が同じなら同じ『解』が得られるので、エリート(経営者)は安心ができる。しかし経営を『美意識』に頼ることは、相当な決断が必要になる。

 だからこそ、そういう『美意識』をしっかりしたものに育てることが大切だと言っている。
それを『美意識』を鍛えるという言い方で表現している。

 筆者は、いろんな事例や、書物や、歴史上の事実や分析を通じて、現状を打破して、次の新しい世界を「新しいルネッサンス」と表現して、この21世紀がそうなればいいのになぁ!という表現をしている。

 こういう成熟した社会や市場においても、ユニクロやニトリや日本電産(ニデック)や、アイリスオオヤマや、外国ではグーグル、アマゾン、アップル、テスラなど多くの企業が成長を続けている。こういう会社には、従来のエリート(経営層)のMBA的科学経営と違った直感の経営や、強烈なメッセージが社内外に発せられている特徴がある。
 
 さらに、そこ商品やサービスは、既存のメーカ等とは一味違う明解なコンセプトを持っている。この各社のリーダの持っている強烈な個性は独自の『美意識』と言えるものだろう。

 本書は、従来のハウツー本ではなく、考えさせられる部分が多い。
そこで、現役時代に松下幸之助氏の経営理念とその実践で学んだ事を思い出す。
 松下幸之助創業者は、『素直な心』を座右の銘にされていた。
 ご参考まで、PHP発行 『道をひらく」 昭和53年発売 をご紹介する。
 
 
幸之助は、日本が第二次世界大戦で戦争に突入したあげく敗戦したのは、何より状況を正しく認識できなかったことに一因があるとみなしていました。
自分の力や相手の力、現状を見誤ったのでは、負けるのは当然のことです。


 このように物事を見誤って失敗するというのは戦争に限ったことではありません。政治や経営、人生等、たとえば適切な政策を立案、推進するためにも、仕事などの成果を上げるためにも、自分自身が幸福になるためにも、物事に対する正しい認識はどうしても欠かせません。
 それでは、どうして人は物事を見誤ってしまうのでしょうか。


 幸之助は、その原因はお互いの心が私利私欲、感情、知識、先入観などにとらわれてしまうためではないかと考えました。心にとらわれや、こだわりが生じると、物事をありのままに見ることができません。たとえるならそれは、ゆがんだレンズを通して物事を見るようなもので、それではまっすぐな棒も曲がって見えます。もとより折々の判断も間違いやすく、なすべきことを怠るなど、行動を過ることにもなりかねないでしょう。

 
 そこで幸之助は、そうした私欲私心などにとらわれず、あるがままの実相をつかむことができる心を素直な心と呼び、みずからそうした心になりたいと生涯にわたって熱心に求めるとともに、広く人々に呼びかけたのです。

 また幸之助は、次のようにも述べています。
「素直な心とは、私心なくくもりのない心というか、一つのことにとらわれずに物事をあるがままに見ようとする心なのです。そういう心からは物事の実相をつかむ力が生まれてきますし、それに基づいて、なすべきことをなし、なすべきでないことを排する勇気というものも湧いてきます。
 
 素直な心の中には、愛というか、憎むべき相手をも愛するといった心、また誤りをただし、正しい方向に導くといった心、そういうものも含まれると思います。また、高い見識というものも、こういった素直な心によって養われるのです。
一言でいえば、素直な心は、人間を正しく強く聡明にするものです。」


 この、『素直な心』の最後の部分で言われていることが、非常重要です。
幸之助さんの提唱された『素直な心』は、単に世の中で言われる「素直」とは少し意味が違います。もっともっと深い意味合いがあり、世の中に役立つために、他の物事に迷わされず、物事の実相を見抜くような力、強い心という意味だと思います。
 
 本書が提唱している『美意識を鍛える』ということは、『素直な心になる』というのと同義語だと感じます。それくらい、この二つの概念に到達することが至難の業だということです。
だから、世界のエリートは、時間とカネをかけて、美意識を磨いているのです。

 簡単に手に入るものは、それだけの価値しかありませんが、努力して手に入れることができるものは、それだけ深い価値があるということです。





2020年7月18日(土)
ウイルス、DNA、PCR、について

 新型コロナウイルスが世界中に蔓延しています。目に見えないウイルスの猛威は第一次、第二次世界大戦以来、世界最大の社会的混乱や経済的被害を巻き起こしています。
現在、収まる気配がありません。

 人類は、有史以来、いろいろな疫病の脅威と戦ってきました。コレラ、ペスト、スペイン風邪など記録に残る数々の疫病が発生し、多数の死者が出ましたが、その都度、乗り越えてきました。

 今回の新型コロナウイルスは、過去のそれらの疫病に匹敵するような規模で、あっという間に世界に蔓延しました。未だ有効なワクチンや治療薬がありません。

 ウイルスなどについて疑問点がたくさんありましたので、生命の成り立ちや、生命科学、遺伝子工学は門外漢ですが、参考書を読んでみました。それを紹介します。

 あまりなじみのない内容ですので、少し肩がこるかもしれません。
分からないところは、ネットや参考図書で調べてみてください。
 理解不足で、内容に間違いがあればご容赦下さい。

 第一話:ウイルスと細菌の違いは何か?
 第二話:ウイルスは生物か、無生物か?
 第三話:遺伝子発見の歴史
 第四話:DNAの四つの構成単位
 第五話:DNAの二重ラセン構造とは?
 第六話:DNAを増やすには?
 第七話:PCR検査とは?

  まとめ

 参考図書
  ・二重らせん   講談社文庫 ジェームズ・D・ワトソン著、江上不二夫、中村桂子訳
  ・生物と無生物のあいだ   講談社現代新書 福岡伸一著
  ・生命とは何か  岩波文庫 シュレーディンガー著 岡小天・鎮目恭夫訳



第一話:ウイルスと細菌(バイ菌)の違いは何か?


 まず、大きさです。
 細菌の代表的なものとして大腸菌があります。大腸菌をラグビーボールに例えるなら、ウイルスはピンポン玉かパチンコ玉の大きさになります。即ち約1/10から/100の大きさです。
 細菌は不定形の球体で、形も『ふにゃふにゃ』しています。ウイルスは整然とした形をしています。

 細菌は光学顕微鏡で見ることができますが、ウイルスは光学顕微鏡の解像力では見ることができません。1930年代に開発された電子顕微鏡を使い、やっとその姿が見えるようになりました。大きさの図は下記のようになります。
 


 細菌は1/1,000mm前後ですが、ウイルスは1/10,000~/100,000mmぐらいの大きさです。


第二話:ウイルスは生物か、無生物か?


 細菌は自ら細胞分裂して増殖します。単細胞の生物と同じです。

 ウイルスは、いろんな種類がありますが、同種のウイルスは同じ形、同じ大きさです。
ウイルスは栄養を摂取しない、呼吸しない、一切の代謝がない、という特徴があります。
 純粋なウイルスは、タンパク質が規則正しく配列された甲殻からできています。精製して取り出せば、結晶になります。結晶は鉱物に近い物質ですから、この意味ではウイルスは物質(無機物)と言えます。

 しかし、ウイルスは自らを増やせる自己複製能力を持っています
 ウイルスは、タンパク質のカラ(殻)の内部に、単一の分子からなる核酸(DNA、もしくはRNA)を持っています
 
 単独では何も生じませんが、宿主となる細胞に付着し、寄生することで自己複製が可能になり増殖します。そういう意味では、ウイルスは生物と言えます。

増殖のプロセスを簡単に言えば、
  ・宿主の細胞表面に付着する。
  ・その接点から細胞の内部にDNAを注入する。
  ・DNAにはウイルスを再生・増殖するための情報が書き込まれている。
  ・宿主細胞はDNAを自分の一部だと思い、ウイルスを作り出す。
  ・細胞内で増殖されたウイルスは、やがて細胞膜を破り、一斉に外に飛び出す。

 ウイルスは、「細胞ではない」「宿主細胞の力を借りて増える」などの共通点がありますが、種類により違いも多く、詳しい研究が始まって100年も経っていないので、未知の部分がたくさんあります。
 確実に言えることは、ウイルスと生物は30億年もの長い間、互いに影響し合いながら共存してきたことです。今後も、新しいウイルスが出現し、生物がそれに適応するという自然の営みが続くということです。
 

第三話:遺伝子発見の歴史

 
 
1953年、ケンブリッジ大学の研究者だった20歳代のジェームス・ワトソンと、30歳代のフランシス・クリックの二人は、DNAが二重ラセン構造をしていることを発表
 その骨子は、
 ・DNAは二重ラセンで、互いに他をコピーした対構造をしている。
 ・二重ラセンが解けると、ちょうどネガとポジの関係になる。 
 ・ポジをもとに新しいネガが作られ、元のネガから新しいポジが作られる。
  そして二組の二重ラセンが生まれる。
 ・ポジ、ネガとしてラセン状の情報の帯が遺伝子情報として生命の自己複製のシステム
 ・生命が誕生する時、細胞が分裂する時、情報伝達される仕組みの根幹になっている。

 それまでの経緯
 英国人、グリフィスと言う科学者が肺炎双球菌は病原性の強いS型菌と、病原性を持たないR型菌があり、病原性の強いS型菌を加熱して殺し、実験動物に注射しても肺炎は発症しない。R型菌をそのまま注射しても病気にかからないことを確認していた。
 さらに、加熱して殺したS型菌と、生きているR型菌を混ぜて実験動物に注射すると肺炎を発症することを確認した。この実験動物の体内からは生きているS型菌が発見された。
 これは、S型菌は死んでいても、R型菌に何かの作用をし、S型菌に変える能力を持つことが分かった。しかし、この現象の原因は解明できなかった。

 DNAが遺伝子であることを発見したのは、オズワルド・エイブリーである。
エイブリーは1877年カナダで生まれ、1913年にロックフェラー医学研究所に36歳で参加、1930年代(マンハッタンに摩天楼が盛んに建設された頃)に、「肺炎双球菌の形質転換」を研究テーマに取り組んだ。
 肺炎球菌はウイルスでなく単細胞微生物なので、光学顕微鏡でも観察できた。
 
 S型菌からはS型の菌が生まれ、R型菌からはR型の菌が分裂により増え、菌の性質は遺伝する。グリフィスが見つけたR型からS型に形質転換する不思議な現象の原因を突き止めようと取り組んだ。
 S型菌をすり潰して殺し、菌体内の化学物質を取り出し、R型菌と混ぜると、R型菌はS型菌に変化することを発見した。菌の性質を変える化学物質は何かを究明した。
 この化学物質こそ遺伝子のことで、彼はそれを『形質転換物質』と呼んだ。
 
 当時、既に遺伝子の存在と化学的構造につき多くの予測がされていた。
遺伝子は『生物の形質に関する大量の情報を担っている極めて複雑な高分子構造を取っている』とか、遺伝子は『特殊なタンパク質である』というのが当時の常識だった。
 
 エイブリーは、S型菌からさまざまな物質を抽出し、何がR型菌をS型菌に変化させるのか、しらみつぶしに調べていった。残った候補は、S型菌体に含まれる酸性物質(核酸=DNA)であると突き止めた。核酸は高分子であるが、四つの要素だけからなる単純な物質だった。だから、複雑な情報が書き込まれていると誰も考えなかった

 現在の情報社会では、デジタル化された情報は複雑な情報や信号を単純な0、1信号で記述できることを知っているが、当時はそういう情報の符号化という概念がなかった。

 DNAは長いヒモ状の物質で、真珠のネックレスに例えれば、真珠はアルファベット、紐は文字列に相当する。

 DNAは強い酸の中で熱すると、紐のつながりが切断されバラバラになる。バラバラの個片を調べると、四つの種類しか存在しないことが分かった。A、T、C、Gである。
この四つでどうして膨大な情報を伝えているのか課題が残った。

 細胞からDNAを取り出す方法は簡単である。まず細胞を包んでいる膜をアルカリ溶液で溶かす。上澄み液を中和する。塩とアルコールを加える。白い糸状の物質が現れる。
これがDNAである。これをガラス棒で絡み取ると、DNAが抽出できる。

 DNAにはその配列の中に、生命の形質を転換させる情報が書き込まれている。
これが20世紀最大の発見とも言われるもので、分子生物学の幕開けであった。エイブリーの大発見である。

 
第四話:DNAの四つの構成単位


 DNAは、A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)の四種類のヌクレオチドと呼ばれる核酸(分子)よりなり、AとT、CとGは互いに水素結合しやすい分子構造をしている。

 下図のように分子構造的に凸凹があり、この凸凹構造が2本のDNA鎖をしっかりペアリングさせている。

 
・四種類のDNAがどうして生物の形質を運んでいるのか?
 DNAとタンパク質の関係は、DNAが運んでいるのは情報であり、実際の作用をもたらすのはタンパク質である。アミノ酸はタンパク質の紐(ひも)を構成し、タンパク質は生命活動の働きを制御し反応を実行させる。

高分子  構成単位  種類  機能
 核酸(DNA)  ヌクレオチド  4種類  遺伝情報の担い手
 タンパク質  アミノ酸 20種類  生命活動の担い手

 では、四種類のDNAがどうして20種類のタンパク質の設計図を担い得るのか?
 コロンビア大学生物化学研究所 アーウィン・シャルガウの法則がある。
『動物・植物・微生物、どのようなDNAであっても、どのようなDNAの一部であっても、その構成は、四つの文字の内、AとT、CとGの含有量は等しいというもの。
 即ち、Aの数=Tの数、 Cの数=Gの数

例えば、
ACACACATAAGCATAAGCGCGCCGCGGAGAAC :センス鎖
TGTGTGTATTCGTATTCGCGCGGCGCCTCTTG
 アンチセンス鎖

 センス鎖 Aが12、Tが2、 Cが9、Gが7
 アンチセンス鎖 Aが2、Tが12、 Cが7、Gが9
 合計  Aが14、Tが14、Cが16、Gが16 となり
   A=T C=G  が成立している シャルガウの法則

これは何を意味するのか?⇒ DNAは単なる文字列としてあるのではない。
では、どのような文字列としてあるのか?  
生命科学者は、パズルを解く競争になった! 
誰が女神を手にするか?

 

第五話:DNAの二重ラセン構造とは


 その難問を見事に解決したのが、1953年、ワトソンとクリッだった。
 『文字列は、ラセンの対構造を取って存在し、2本鎖のペアーである
下図を参照

 

 
 さて、DNAが相補的に対構造をしていることは、一方の文字列が決まれば他方が一義的に決まる。どちらかが部分的に失われても、他方を元(鋳型)にして完全に修復できる。
 
 例えば、“ATAA”の文字が失われても、“TATT”が保存されていれば、その穴を埋めることができる。自然界には紫外線や放射線や酸化により、遺伝子は損傷を受けることが起きる。損傷を受けても、元に修復することが可能になっている。

 センス鎖は、情報配列としてダイレクトに情報を持つ鎖
 ・アンチセンス鎖は、センス鎖の『写し鏡』として存在する。


 まとめると、
・二重ラセンがほどけると、センス鎖とアンチセンス鎖に分かれる。
・それぞれを鋳型にして、新しい鎖を合成する。
・センス鎖はこれをもとに新しいアンチセンス鎖をつくる。
・アンチセンス鎖はこれをもとに新しいセンス鎖をつくる。
・こうして二つのペアーのDNAの二重ラセンが誕生する。

 一本の鎖が存在すれば、その文字配列に沿って、順に対合する文字を拾い、他方の鎖が合成される。これが生命の自己複製システムである。

 一つの細胞が分裂してできた二つの娘細胞に、このDNAを一本ずつ分配すれば、生命は子孫を残すことができる。この繰り返しを生命誕生以来、38億年間繰り返し行われてきた。
 
第六話:DNAを増やすには?


 細胞内でDNAが複製される時に生じている現象はきわめて複雑な反応の連鎖である。
数十以上の酵素や機能タンパク質によって支えられている。

・まずDNAの二重ラセンを特別なしくみでほどく。
・ラセンをほどく際に生じるねじれを解消するしくみも必要になる。
・ほどかれた地点には、複数の酵素群が集結し、核酸の材料となるヌクレオチドを動員して 一つの鎖を鋳型にして新しい鎖を合成し始める。
・細胞の狭い核の内部では数々の空間的な問題が生じる。それを解決しながらDNA複製を進めるしくみが必要になる。
・DNAを見えるようにするには、10億以上のDNA分子が必要になる。
・DNAを増やしたい時は、細胞の力を借りる。
・多くの場合、特別な大腸菌を使い、その内部でDNAを増やしてもらう。
 

第七話:PCRマシン


 PCRとは、ポリメラーゼ・チェイン・リアクション
(ポリメラーゼ連鎖反応)

1988年 アメリカのパーキン・エルマー・シータス社が開発
任意の遺伝子を試験管(チューブ)内で自由自在に複製する技術のこと。
もはや、大腸菌の力を借りる必要がなくなった分子生物学上の革命と言える。

PCRの原理
①複製したいDNAが入ったチューブ(試験管)を短時間、100℃近くまで加熱する。
②AとT、CとGの対合している結合が切れる
 

③DNAはセンス鎖とアンチセンス鎖に分かれる
 

④チューブを一気に50℃まで冷やす
⑤再び徐々に、72℃まで加熱する。
事前に、チューブ内に、ポリメラーゼ(酵素)とプライマー(短い合成一本鎖DNA)と、十分な量のA、T、C、G、のヌクレオチドを入れて置く。

⑥ポリメラーゼはセンス鎖の一端に取り付き、プライマーの助けを借りてセンス鎖を鋳型にして対合するDNA鎖を四つの文字で紡いでゆく。

 

⑦同じことが、アンチセンス鎖でも生じている。
 アンチセンス鎖を鋳型にして新しいDNA鎖がポリメラーゼによって合成されてゆく。
 
合成反応は約1分程度で終わる。これでDNAは2倍になる。

 

⑨この行程を繰り返す。DNAは2倍、2倍で増える。
一サイクルは、ほんの数分間で終わる。
⑪DNAの数は10サイクルで、2の10乗で1024倍に、20サイクルで100万倍に、30サイクルでは10億倍になる。要する時間は2時間足らず

PCRマシンは温度を上げ下げするだけの装置
チューブ内ではDNAが連鎖反応的に増幅を繰り返す。

 100℃近くでも酵素が活性を失わないよう、ポリメラーゼは海底火山近くの土壌から採取した好熱細菌から抽出したものを使う。反応最適温度は72℃。

PCRのミソは?
①DNAを複製する
②ごちゃ混ぜのDNAの中から、特定の一部だけを抜き出して増幅することができる


・人のゲノム(遺伝子)は、30億個の文字列から成っている。
・一ページに1000文字を印刷しても、300万ページにのぼる量に相当する。
・遺伝子研究や遺伝子探索はこの中から特定の文字列を抽出する作業になる。
 犯罪捜査で、犯人特定のためのゲノム・遺伝子検査は、このPCR検査を使っている。
  新型コロナウイルスの感染の有無も、PCR検査で行っている。


PCRは、DNAの二重ラセンがセンス鎖と、アンチセンス鎖で出来ていることを巧みに利用し抽出(ソーティング)と、コピーを同時に実行する画期的なテクノロジーである。

そのカギは二種類のプライマーを用いること
 プライマーは極く短い10から20文字程度の一本鎖のDNAである。
この程度の文字列なら任意の文字列を人工的に合成することができる。

 30億文字から成るゲノムの中のどこかに存在する1000文字程度からなる特定の遺伝子を取り出して増幅したいとする。

 元になるゲノムは極く少量である。
1000文字のDNA配列の左端に着目する。
プライマー1は10文字から成る。この端の部分のアンチセンス鎖に相補的に対合する配列を持つように合成されている。

・100℃に加熱すると、センス鎖とアンチセンス鎖に分離したゲノムサンプルにはプライマ  ー1が大量に入れられている。
・次に、50℃まで下げられると、大量のプライマー1は一斉にゲノムの中に散らばり自分と マッチングする配列を探す。もし、対合が成立すると、プライマー1はそこに落ち着く。
・長い一本鎖のDNAに、短いプライマー1が結合した状態である。

・ポリメラーゼはこのような場所をきっかけに初めてのDNAの合成を開始できる。
・プライマーはポリメラーゼが反応を引き起こすための土台として働き、ポリメラーゼはプラ  イマーに新たな文字をつなげてゆく。
・プライマーは対合するアンチセンス鎖の文字を鋳型として決定されてゆく。
・ゲノムの構造は膨大で、類似の配列は何か所かあり、プライマー1はいろんな場所に結  合する。
・ポリメラーゼによる合成は複数の場所で起きる。

 重要なことは、プライマー1にアンチセンス鎖状の1000文字部分の左端に必ず対合するということ。

 プライマー2というもう一つのものを用意する。
・プライマー2は1000文字配列を挟んでプライマー1と反対側の端の配列に対合する10  文字から成っている。

プライマー2は、プライマー1とは逆に、センス鎖に対合するように配列を作っている。
・センス鎖に結合したプライマー2はポリメラーゼが反応のきっかけをつくり、新しいDNA鎖  の合成を引き起こす。
プライマー2はセンス鎖に対合しているから、合成の方向はアンチセンス鎖と対合してい  る先ほどのプライマー1とは逆方向になる。

プライマー1から開始される合成反応と、プライマー2から開始される合成反応は1000文 字の配列を互いに挟み込むように向かい合いながらそれぞれ別の鎖を合成するように
 仕組まれている。

・その結果、出来上がるのは1000文字配列を含む新しい二本鎖のDNAである。
・このサイクルを理論上、無限に繰り返えしうる
・その都度、1000文字鎖は増幅される。
プライマー1と2が強調して働く場所はこの1000文字を挟む部分でしかない
・この部分だけが増幅される。

 こうして、目的のDNAが得られることになる。
 

まとめ


 インフルエンザウイルスや、ノロウイルスなど名前はよく知っているが、ウイルスと病原菌の違いが何なのか、詳しく知らなかったので調べてみた。忘れない内にメモしようと思い、自分なりにまとめてみた。

 知っていることや、自分が理解していることを書くのと、分からないことをまとめるのは、勝手が違い、骨が折れる作業だったと身に沁みた。

今回、気づいた点は?

①遺伝子や細胞分裂の様子は、おぼろげに知っていたつもりでいた。その複雑なメカニズムや動きがどうして行われるのか、この巧妙な営みや仕組みはどうしてできたのだろう?
まだまだ解明できていない。そこはまさに神の領域かもしれない。

②目に見えない遺伝子の解明は、19世紀以降、生命研究者のテーマとして進んできた。
 その結果、遺伝子やタンパク質など分子レベルの構造が解析された。

③研究者はそれまでの通説や常識に囚われると、発想が硬直化し、自然界の法則や姿を見誤ることがよくある。その一例が、『遺伝子は膨大な遺伝情報を担うため、大きなタンパク質でなければならない』という常識だった。これに縛られた研究者は、ゴールを逃した。
 それを、『文字鎖が二重ラセン構造を構成している』と喝破した二人の若き科学者は他の研究者にない着眼センスを持っていたのかもしれない。

④しかし、この二重ラセン構造の発見も二人だけの力で、一朝一夕に見つけたものでなくそれまでの研究者の実験データやX線写真などの資料をもとに、思考した結果、発見されるもの。それまでの研究者たちは、実験をもとに理論を組み立てる帰納法により研究を進めてきたのに対し、ワトソンとクリックの二人は、エイブリーと、シャルガウの定理を実現するために、どうあれば理屈に合うのか緻密に実験を重ね、データを蒐集し解析を進めるのではなく、あるべき姿を分子模型を作り、それをもとに遺伝子の姿を思い描くというアプローチで進めた。この課演繹法的なアプローチが大発見につながった。
 
 (注)
・帰納法:具体的な事例から一般に通用するような原理、法則を導き出すこと
・演繹法:論理的形式に頼って、推論を重ね、結論を導き出すこと。

⑤物理の世界は、『万有引力の法則』や、『エネルギー保存の法則』や『オームの法則』や、『マックスウェルの法則』等、いろんな法則が発見されてきた。これらの法則は、例外なく自然現象にキチンと当てはまる。
 一方、化学の世界、特に生命化学や遺伝子学などの有機化学の世界は、少し趣を異にする。実験により検証しつつ進めることが基本になるのだろうか?

 最近は、この分野にもAIが導入され、数ある既存の医薬品の中から、新型コロナウイルスの遺伝子に効き目のありそうな分子構造をした既存の何千、何万もの薬の中から、ソーティング(検索)して見つけ出し、臨床試験して効果を確認するような動きができる。
科学技術の進化はとどまるところを知らない。

⑦今、コロナウイルスが蔓延しているが、日本ではPCR検査が進まないと盛んに言われている。PCR検査器は箱の内部(庫内)の温度を上げ下げする簡単な装置に過ぎない。
 試験管に入れるポリメラーゼとプライマーという薬品が必要になるが、それも国内で十分調達が可能である。にも関わらず検査数が増えないのは、『感染病予防法』という法律の『縛り』が、検査の拡大を阻止しているという皮肉な状況になっている。なぜ、ブレーキを踏無必要があるのか?腑に落ちない点だ!
 
 厚生労働省は一刻も早く法律を改正し、できるだけ多くのPCR検査を実施できるようにして、感染状況を正しく把握し、予防の対策をとる必要があるのではないか。

 Go toキャンペーンは反対が多い。現状のままこのキャンペーンを実施すれば、素人でも分かるが、あっという間に全国に感染拡大する。
 そうならないようにするために、西村大臣や加藤大臣は、『しっかり感染予防して出かけてほしい』と言っているが、『しっかり感染予防する』とはどうすればいいのか?
 具体的に、これこれをして出かければ大丈夫だという内容が知らされていない。

 PCR検査が、法律改正すれば、1件当たり2000円程度で、しかも唾液採取で出来るようになるので、出かける人には、全員、PCR検査を義務付けし、キャンペーン支援金の一部を検査料に充当し無料にすれば、Go toキャンペーンも安心して実施できる。