2023年9月5日(火)
中国の若者の就職率に驚く!

 7、8月は暑い暑いと言いながら、あっという間に過ぎ去ったような気がする。9月に入ったが、相変わらず猛暑が続いている。我が家のデジタル温度計は今、36.3℃を示している。昔は暑い日でも精々34~5度であった。今年は35℃以上になる日がやたらと多い。これも地球温暖化の性かと思う。夏空はムクモクと入道雲が立ち上るのが当たり前なのに、秋のような澄み渡った空にぽっかり白い雲が浮かんでいる。日差しは刺すように痛みさえを感じる。
 
 学校では二学期が始まったが、この暑さでは先生も生徒も大変だろう。最近、教室にはエアコンが設置されていると聞いているので、快適かもしれない。

 日本は4月に新学期を迎えるが、海外では9月が学期初めのところが多い。何かにつけて日本の制度は海外と違ったことが多い。春の入学シーズンは桜が咲き、芽が吹き始める時期なので、新しい門出にふさわしい時期だと思う。日本の四季(時候)によく合っている。卒業・入学時期を海外と合わせようかという案も時々議論されているが、何もかもグローバルスタンダードにする必要はないと思う。
 
 さて、隣の中国、韓国は、福島原発の『処理水』の海洋投棄に反対するニュースが盛んに報じられている。『処理水』を『汚染水』だとして、絶対反対だと言っている。『処理水』は元は確かに『汚染水』だが、ALPSという多核放射物質を除去できるフィルターで濾した水なので、有害な放射性物質は除去されている。
 ただし、水分子(H2O)と化学的振る舞いが同じトリチウム水(HTO)は今の技術では分離できない。トリチムは自然界、空気中や海洋の海水にもわずかに存在しているので、濃度が希釈であれば人体に問題ないと言われている。国際原子力機関(IAEA)も立ち合い、安全性を担保して『処理水』の海洋投棄を8月24日に始めた。中国、韓国も原発の排水の中に、トリチウムは含まれている。彼らは、正常稼働している原発の排水と、原子炉事故を起こした放射性汚染水の汚染物除去をした『処理水』とは違うという建前で反対をしている。これは世界の原発を監督しているIAEAの科学的評価に従うべきだろう。

 中国の話題になるが、この数か月前から中国の若者の失業率が2割を超えているという話を聞いた。これは大変な数字だ。20歳前後で一番労働力として活躍できる年代の人が就職できないという状況はなぜなのだろうか? 一人っ子政策で、親が子供に、よりよい生活ができることを楽しみに学資を支払い、カネをかけて育ててきたはずだ。その子供たちが大学を卒業しても就職ができないという状況は非常に親子にとってつらいはずだ。
 
 中国は人口が日本の10倍、GDP世界第二位の経済大国、その中国が不動産バブルを目の前にし、若者の就職難、経済低迷に遭遇している。
 その実態について、日経ビジネス誌の関連記事を一部紹介する。
 

中国都市部における若年層の失業率が上昇し続けている。
 中国国家統計局が6月15日に公開した失業率統計によると、2023年5月における都市部の若年層(16~24歳)失業率は、過去最高の20.8%に達し、同4月に続き2カ月連続で20%を上回った。
 一方、新型コロナウイルス感染症からの経済再開を受け堅調なサービス消費を背景に全体の失業率は緩やかな低下傾向にある。昨年の上海ロックダウンなどで落ち込んでいた反動もあり5月の社会消費品小売総額は前年同月比12.7%増、中でも飲食店収入は同35.1%増となった。全体の失業率も一年前の5.9%から、足元では5.2%まで低下している。つまり、失業率全体では緩やかに改善方向に向かっている中で、若年層の失業率は急上昇している。
 さらに、同統計の過去のトレンドを見てみると、中国の卒業時期直後となる7月にピークをつけており、今後さらに上昇する可能性は高い。また、20年と比較して21年はほぼ横ばいであるのに対し、22年、23年と徐々に高くなってきている(下表)。

(図表1)若年層失業率の推移

(図表1)若年層失業率の推移

(出所)国家統計局

学生定員を拡大した余波
 大学の卒業生の中で、全体に占める大学院生の割合が高まっているのである。3年前、中国では経済危機で労働市場が急激に悪化した際に、大学の定員数を拡張することで、労働供給を減らし需給バランスの緩和を図ってきた。コロナショック下でも同様の施策が取られたが、特に増えたのが、大学院生だった。中国教育部が発表した 「2020年全国教育事業統計公告」によると、大学院生(修士・博士)の入学募集者数は19年より19万人(20.7%)増となる110.7万人に達している。なお、21年、22年もそれぞれ約7万人程度増えている。 実際に、国際経済研究院の修士課程の学生数も、それまでの25人前後から21年には40人前後へと急増している。大学全体でみても、今年の学部卒業者が2100人超であったのに対し、大学院卒(修士・博士)はそれよりも多い2400人超となっている。その学生たちが卒業を迎え、大量の若い労働力が市場へとなだれ込み始めているのである。3月2日、中国人力資源・社会保障部の王暁萍部長は記者会見で、23年における高等教育機関(大学、高等専門学校など)の卒業生が1158万人に達する見通しを明らかにしている。コロナ前の19年はこの数は820万人程度だったため、わずか4年で約4割増えることになる(図2)。
 21年における卒業生の増加は、主に、19年に入学者を増やした大学専科(大専)の卒業生の増加に 起因する。一般的に、中国の大専の在学期間は2~3年で、日本の短期大学や専門学校に近い。その卒業生が急増した。 中国の大学院(修士課程)の在学期間も2~3年となっている。対外経済貿易大学の大学院は2年制なので、卒業生が今年増加したが、北京大学や清華大学など3年制の大学院も少なくなく、本格的に増加が始まるのは来年以降となる。

(図2)中国の高等教育機関における卒業生数の推移

(図表2)中国の高等教育機関における卒業生数の推移

 (出所)中国教育部 
(注)数値には、大学院(博士・修士)、本科大学(4年制大学)、大専の卒業生が含まれる。23年は見込み。

労働市場に変化の兆し
 その一方で、急増する大卒者を大量に吸収できるほど労働需要は伸びていない。特に、近年では IT関連企業を中心にリストラが進められており、大卒者が就職を希望するホワイトカラーの仕事は限定的で、労働市場でも圧倒的な買い手市場となっている。 中国では大卒者のホワイトカラー志向が強い。 
一方、人材が不足しがちな工場などでの就職は不人気で、ブルーカラー市場に大卒者はほとんどいなかった。実際、6年前の本連載では、大卒者の就職観を以下のように紹介していた。

「中国のブルーカラー市場とホワイトカラー市場は分断されている。中国では『大卒=ホワイトカラー』 という意識が依然として強く、『メンツ』を重んじるあまり肉体労働を敬遠する傾向にあるためだ。」
 このような雇用のミスマッチも若年層の失業率を高める一因となっているが、徐々に変化の兆しが現れている。 工場現場などへの就職は相変わらず敬遠されがちだが、同じ肉体労働でも、比較的自由がきくギグワーカーとして働く大卒者は増えているようだ。ネットデリバリーサービス最大手の美団が20年上期に行った調査によると、295.2万人の配達員の内、大専以上の学歴保有者の比率は24.7%となっている。本科大学(4年制大学)、大学院の卒業生も一定割合いる。なお、22年には同社の配達員の数は624万人まで倍増しており、コロナ禍による就職難の受け皿にもなっている。
 さらに多くの大学院生の卒業が見込まれる来年以降においても、「卒業=失業」という、若年層の厳しい就職環境はしばらく続くだろう。このような中、ギグワーカーを中心とした一部のブルーカラー市場においては、大卒者の比率がさらに高まっていくかもしれない。 「大卒=ホワイトカラー」という固定観念から脱し、働き方が多様化することは歓迎すべきだが、それに適応した社会制度の構築が必要である。特に、既存の社会保障制度の対象外となるギグワーカーに対するセーフティーネット(安全網)の構築は可及的速やかに進めるべきであろう。

 (注) ギグワーカーとは、インターネットを使って短時間かつ単発の仕事をする労働者のこと。 
 仕事はプラットフォームサービスを通してマッチングされ、労働者は自由に時間とスキルを売り切りできる。 ギグワーカーの由来は、音楽用語 で一度限りの演奏を意味する「gig」からきている。
  ギグワーカーは企業に属さない個人事業主やフリーランスの場合が多いが、副業として取り組む場合もある。


日本と重なる中国の姿
 日本も大学や短大の学校数が増え、しかも大規模私学が定員数を増やしたので、卒業生が増えて大学は卒業したけれど就職ができない学生が増えている。また、卒業年が不況で就職ができない人は大学院に進学することも増えている。しかし、大学院を出ても、一層就職が厳しという状況にある。
『大学は出たけれど』という悲惨な姿になる。いま、中国や韓国がそれに似た姿になっているらしい。
大学の経営も、定員割れの学校が私学で7割に達したという報道があった。私学は儲けを目指す事業ではないことを再認識し、責任を持ち高いレベルの教育を行ってほしい。

 世の中は非常に速いスピードで進化している。それについてゆくことは並大抵ではない。子供たちは大きくなるに従い、いろんな関所に遭遇し、それを乗り越えられる幸運な子供と、そうでない子供がいる。一方で世の中にはいろんな職業があり、大学や大学院を出た人でなければならない仕事もあれば、学歴に関係なく手先の器用さ等を求められたり、音楽や絵画や芸術の世界のように本人の才能が生かせる仕事もある。
誰もが一様に大学を出て、学歴がものをいう時代は去った。

 大学は出て、それ相応の高い知識を修得した人はよしとして、学生時代をアルバイトで過ごしたような人は、学卒という学歴では仕事にならない。猫の杓子も大学に行くという時代は既に過ぎ去っている
自分の持ち味を生かして、自分にしかできない才能を生かし、人生を切り拓く覚悟がいる時代になった。

 中国も「大卒=ホワイトカラー」への憧れ(固定観念)はもうすでに崩れて、終わっている。





2023年8月31日(木)
中国バブル崩壊か?

 この歳になって、『これはやりすぎだぁ! これは異常だぁ!』と感じることがある。そして、その後に何かが起きることをたくさん経験してきた。 その一つが中国のマンション建設ラッシュだ。

 中国には過去に数回行ったことがある。まず、松下に入社して1年生の頃、香港で『Technics20chコンサート』ということで、当時の最先端オーディオ機器を運び、香港の大ホールで、レコードコンサートを行った。その時に装置のセッティングやプレーヤとして行かせてもらった。当時の中国、香港に入るにはパスポートとビザとマラリア予防接種を受ける必要があった。今も記憶に鮮明に残っているが、これが人生初の海外渡航だった。その時の香港は日本では見られない高層マンションが立ち並んでいた。香港空港に着陸する際は、その高層ビルの屋上に当たるのではないかと思うほど接近していた。後で知ったが、当時の香港空港は世界一危険な空港とされていたようだ。パイロット泣かせの空港だったそうだ。
 
 当時の香港は英国の租借地で、香港政庁が統治していた。だから言葉は英語と中国語。今思えば、香港は中国でありながら、実はイギリスの都市だった。街中には、ヨーロッパのブランド品店が建ち並び、まさにヨーロッパの都市の様相だった。25歳の頃だったので、今から55年ほど昔話になる。

 その後、仕事で上海に数回行ったことがある。当時の上海空港は職員が自転車に乗って行き来していた。滑走路以外のアクセス道路は凸凹していたのを覚えている。上海近くに宝山製鉄所があり、ここは八幡製鉄が日中協定で技術支援していた。宝山製鉄所は中国最大の製鉄所だったので、現地の社員に車で見学させてもらった。その時、マイクロバスでガタガタ道を行ったが景色が揺れて見え、車酔いのような感じがした。その原因は車の窓ガラスが平面でなくゆがんでいたからだ。運転席のガラス越しは普通に景色が見えた。目の異常でなくてよかったが、当時の中国の製造技術レベルが分かった気がした。
 
 その後、退職してから、娘が上海の法律事務所に研修に行っていたので、上海近辺の観光に連れて行ってもらった。その時、上海市から少し離れて地方に行くと、何もないところに急に赤い大きな幕が張られ、・・・・住宅建設・・・と書かれた看板(幕)があちこちに張られていた。その光景は異常に感じた。その近くにはすでに完成したマンション群があったからだ。次々と、こんなにたくさん高層マンション(多分15階建て以上)を造って、いくら中国の人口が多くても、これはやりすぎではないかと思った。

 その後、ツアーで中国各地に旅行したが、ゆく先々で同様の光景に出くわした。日本は平成時代だった。日本は失われた30年の時代に突入し、デフレで経済が縮小し、元気がなくなっていたので、中国のイケイケドンドンの光景を見て、これがいつまで続くのだろうと疑問に思った。『いずれ壊れるぞ!』と思っていた。
 
 知り合いが中国で仕事をはじめていた。彼の話を聞くと、「日本ではもう仕事ができない」ということだった。「なぜなの?」と聞くと、「中国では当事者だけで、いろんな重要な決裁がその場でドンドンできるので、仕事が早い」というのだ。日本は組織が硬直化して、物事を決めるには、いくつかの決裁印が必要で、その稟議のために多くの時間がかかる。そのスピードの差が中国がドンドン前向きに進んでいることになるということだった。なるほどよく分かると言っておいた。

 物事は良いこと尽くめはない良いことがあれば、必ず反面、悪いことがある。表があれば裏がある。
中国の走るスピードが速くなればなるほど、負の面が蓄積されるはずだと持っていた。それがここにきて一気に噴出してきた気がする。例のマンション群は、今は幽霊建築物と化し住む人がいない。建物が無数に聳え立つ光景に変わった。イケイケ・ドンドンの流れが巨大化したので、その負の遺産が異常に膨張し蓄積されている。中国経済は『経済破綻(デフォルト)近し』の非常に危険な状況にある。

下記のような記事も見つけた。中国新聞の記事より。
 対岸の火事と静観してはいられない。中国の不動産大手「恒大集団」が米国で破産法の申請をした。
「債務再編のための手続き。破産申請ではない」。恒大はそう強調するが、昨年末で負債は何と約48兆円。どうして素直に受け取れようか
▲米国がくしゃみをすれば日本は風邪をひく―。かつてはそう言われたが、今は中国のくしゃみが怖い。不動産バブルが崩壊すれば中国景気は一層冷え込むはず。日本のみならず、世界が寝込む事態につながりかねない
▲10年前に訪れた中国の都市はどこも活気があった。高層ビルが並び、着工を待つ土地も広がっていた。今は建設を放り出したビルが目立つ。入居させろと叫ぶ購入者たちの姿をテレビで見た。不動産最大手・碧桂園も資金繰り悪化が伝えられる
▲今の中国は30年前の日本にそっくりだと、ささやかれる。「中国経済の日本化」を指摘する専門家も。今にもはじけそうな不動産バブルのほか、就職氷河期や少子高齢化などよく似た悪い材料が揃っているという。
▲中国が日本への団体旅行を解禁した。3年半ぶり。爆買い再来を期待したいが前のような「お客さん」ではあるまい。冷静に迎え入れたほうがよさそうだ。


 まさに、我が人生55年前から中国を見てきたが、その異常な負の部分が表面に表れてきた思いがする。この余りに大きな中国の負の遺産は、今後、不動産バブル崩壊として日本の二の舞になる言われている。
 中国は何かにつけ日本の10倍の国だ。うまく行っているときは、規模といい、スピードといい、手が付けられない状態で走るが、いつまでもうまく走り続けることはできない。その時の負のエネルギーは巨大なものになる。さて、日本は?、いや自分の生活にどう悪影響が現れるのか?よく注視する必要がある。
 決して、他人事では済まないだろう!!




2023年8月30日(水)
そろそろ危ない! 富士山の噴火!

 いつ起きるのか?? 
 誰にもわからないが、必ず近々、富士山が噴火すると言われ続けている物騒な話である。『災害は忘れた頃にやってくる 』と言われるが、阪神大震災、東日本大震災、東日本の大津波、これによる福島原発の爆発事故など、近年大きな災害が起きている。
 
 日本は成長が止まった世界3位の経済大国となったが、福島や東北旅行をすると巨大なコンクリート防波堤が海岸に建設され、異様な感じがする。地元の人はどう感じているのだろう?
 以前の自然な姿のリアス式海岸景色がぶち壊しになってしまった。こういう巨大な防波堤は何とかならなかったのだろうか! とやりきれない思いがする。

 それは、自然の力に対して人間の力を誇示ように見えるが、自然は人間の力ではどうしようもない巨大なエネルギーを発揮する。人間ができることは、過去の災害を参考にして、安全を確保するための目標を決め工事して、これで対策ができたと安心している。その対策は一方で自然の姿をぶち壊すことになる。
 そういう対策ではなく、自然との共生を考えた対策ができなかったのだろうか?と東北の津波対策を見て感じる。三陸鉄道が開通したので乗ってみたが、リアス式海岸線を眺めつつ、そういう思いを抱いた。

 さて、休火山の富士山はそろそろ活動期に入った。富士山は3つのプレートの境目に位置し、そういう場所では今まで何回となく地震が起き、火山が噴火してきた。東日本大震災によりマグマが刺激され、近々高い確率で発生が予想されている東南海大地震と呼応して、いつ噴火が起きてもおかしくない状況だと言われている。
 富士山の噴火の歴史は平安時代に延暦大噴火(800年~802年)、貞観大噴火(864年~866年)、そして江戸時代の宝永大噴火(1707年)の3回が記録されている。宝永大噴火が最大で、この時に新しい火口が3つ形成された。第一火口は新幹線の車窓からも見ることができる。そして現在に至っているが、そろそろ噴火活動の時期になっていると話題になっている。

 富士山;宝永の噴火の火口

 火山の噴火について少し調べてみた。
火山噴火が起きた場合に、怖いのは溶岩流、火山灰、火砕流である。イタリアを旅行すると、必ずツアーが立ち寄る先に古代ローマの植民地『ポンペイの遺跡』がある(クリックすると、イタリア旅行記にリンクしています)
 ポンペイはベスビオ山が西暦79年に噴火し、その火砕流の灰で一夜にして埋り消滅してしまった。
ポンペイはナポリの近郊で、海に近く商業都市として栄えていた。
噴火の前ぶれは、西暦62年2月5日、ポンペイ地震から始まる。
 
 ポンペイ;古代ローマの植民都市で商業都市。

そう考えると、東日本大震災(M9.2巨大地震:2011年3月11日)から12年が過ぎ、ポンペイ大地震からベスビオ火山の噴火に至る時間を考えると、富士山の噴火を十分考えて対応しておくことが大切だ。

 特に噴火後の火砕流は非常に危険である。火砕流について

火砕流のタイプとその起源 火砕流のタイプは大きく3つ。

(A)溶岩ドームが崩れて発生するタイプ
頂上に溶岩が成長してできた溶岩ドームの大きなブロックが砕けながら急勾配の斜面を転げ落ちることによって発生する火砕流である。 インドネシアのメラピ火山が、成長中の溶岩ドームからこのタイプの火砕流を起こすことから、火山学では「メラピ型火砕流」と呼ばれている。 19911995年に雲仙普賢岳で発生したものもこれに属する。

【図】火砕流A:溶岩ドームが崩れて発生するタイプ
 溶岩ドームとは、粘り気の強いマグマが地表に噴出したときにできるドーム状の高まり
その下からマグマがせり出してくると、溶岩ドームは次第に大きく成長するのだが大きくなりすぎると、まだ熱い溶岩の塊が端から崩れ落ちることがある。この塊がバラバラにはじけることにより、細かくて熱い火山灰が大量に生まれ、小規模の火砕流が発生する。このとき、火砕流の中に含まれる高温の岩片が、夜間に赤く光って見える。

(B)高く上昇した噴煙柱が崩壊して発生するタイプ
開いた火口から火砕流が一気に流れ出るもので、「スフリエール型火砕流」と呼ばれる。火口からいったん上空に噴煙柱が立ち昇ってから、崩落して火砕流となることもある。

【図】溶岩タイプ:高く上昇した噴煙柱が崩壊して発生するタイプ

ニューヨークのWTCがテロで爆破された際に、ビルの外壁などの残骸が広がったのに類似
スフリエール型の火砕流は、メラピ型と比べより広範囲にわたって流れ下る点が特徴的である。

【写真】スフリエール火山
 「スフリエール型火砕流」の名称の由来となったスフリエール火山。1902年、

 C)マグマが急斜面に落下した直後に走り出すタイプ
高温のマグマが、傾斜角30度を超すような斜面に落下したとき発生する。マグマは斜面にへばりつくことができずに下へと転がりだす。破砕が急速に進んで、粉体流が発生する。その結果、高温の火砕流となり、一気に流れ下るのである。

【図】溶岩タイプB
 これら火砕流は、どれも大変に危険であり、いつ発生するかはほとんど予測不可能である。

■被害の大きかった雲仙普賢岳で生じた火砕流
雲仙普賢岳の一連の噴火では、なんの前触れもなしに溶岩ドームが崩落してメラピ型の大きな火砕流が発生し、3人の火山学者をふくむ43人の犠牲者を出す惨事となった。溶岩ドームから発生した火砕流を近くから見たり撮影しようとした人が集まっていた。

【写真】雲仙・普賢岳噴火で観察された火砕流
 1991年の雲仙・普賢岳噴火で観察された火砕流

■火砕流という現象は、人間の感覚からかけ離れている。
当時の火山学者たちはまだ、火砕流の恐ろしさをリアルに伝えることができなかった 富士山では(A)と(B)のタイプの火砕流は起きていない代わりに、マグマが急斜面に落下した直後に走り出す(C)タイプの火砕流が確認される。

■火砕流の規模と火山爆発指数
火山の噴火には、爆発の強さを表す指標がある。「火山爆発指数」(VEI)と呼ばれるもの、1回の爆発でどのくらいの量のマグマが放出されたかを示す。地震のマグニチュードと同様に、数の何乗かを示す指数として0から8までの数値で表現される。これに応じて、異なった見かけの噴火現象が起きる。

【図(表)】爆発の大きさを示す火山爆発指数

■火砕流についても、小規模な火砕流と大規模な火砕流とがある
大規模な火砕流は膨大な体積をもち、分布域は数千平方キロメートルにも及ぶ。

■カルデラが語る火砕流の威力
火砕流が噴出すると、地下のマグマだまりはほぼ空っぽになり、地上の噴出口には直径10キロメートルを超えるような巨大な陥没地形、すなわちカルデラができる。噴火によってマグマだまりの中の圧力が急に下がった結果、マグマだまりの天井を支えることができなくなって潰れる
カルデラは体積にして10立方キロメートル以上のマグマを噴出した場合にできる。
カルデラが残されるような大規模な火砕流をともなう噴火は、巨大噴火と呼ばれている。
非常に破壊力が強いだけでなく、地球規模の災害をもたらすこともあるのだが、日本列島にはカルデラは至るところにある

■地質学的には「普通」に起こる大規模火砕流
大規模の火砕流が噴出すると、地表には溶結凝灰岩と呼ばれる硬い岩石が生じる。火砕流に含まれていた高温の火山灰や軽石が再び溶けて固結したものである。大規模な火砕流はしばしば広大な溶結凝灰岩でできた台地をつくってきた。小規模の火砕流でも、高温のマグマが噴出した場合には溶結凝灰岩ができることがある。

【写真】火砕流の爪痕を残す樹木のない斜面
 雲仙・普賢岳の溶岩ドーム。火砕流の爪痕を残す樹木のない斜面が噴火規模の大きさを物語る
地質学的なタイムスケールで見れば、大規模火砕流は火山地域に普通に見られる現象である。大規模火砕流はまれにしか起こらないが、ごく小規模な火砕流は世界的には毎年のように起きている。

■高温・高速で流れてくる「火砕サージ」とは?
火山灰や軽石を内部に含む高温・高速の流れとして、「火砕サージ」という現象がある。火砕サージは「火砕流よりも流れる最中の密度が小さい」と考えられるが、その流域にある建物を倒し焼き尽くすほどの破壊力をもつ。

【写真】セント・へレンズ火山での「火砕サージ」
「火砕サージ」発生の瞬間。アメリカ・ワシントン州のセント・へレンズ火山

 
 新幹線からスマホで撮った富士山!
 この奇麗な姿が一瞬で変わる日が来るかも?
 
 
 富士山が大噴火した場合、どのくらいの被害が生じるか、各方面でその見積もりをしている。被害は噴火の規模により大きく異なるが、『東京には数cmから数十cmの火山灰が降るだろう』と言われる。問題は火山灰により、新幹線や東名高速道、中央高速道などのインフラが遮断されることだ。もっと被害が大きくなると、中央・関東・東北・甲信越地方の原発は大丈夫だろうか? 直接的な地震の被害より、火山灰により冷却水が詰まったり、停電による冷却不能の状態になりはしないか? そうなれば福島原発の二の舞になる。
 
 災害が起きるたびに、聞こえてくる決まり文句は「想定外の出来事」という責任逃れの言葉だ。そこには自然の力に対する人間の力の限界があることを暗に示している。その言い訳が『想定外』という言葉にすり替えられる。想定は人間がすること。想定を破るのは自然の力だ。
『自然の力には勝てない』という立場に立てば、防災の対応の仕方が変わるはずだ。頑丈な防波堤を造るのではなく、自然のままの海岸を残し、人の住まいを移す。津波に耐える高さの場所に住むことだ。
 福島のある被災地をツアーで見に行ったが、この両方の対策をして、これで防災は万全だと言っていた。
防災面では万全かもしれないが、これでは自然の良き姿を破壊し、二度と昔の自然の姿に戻れない。

そういう防災対策を練って準備することが大切なことだろう。今からでも遅くはない!
大災害は直接的な防災対策では防ぎきれない。そうであれば、大災害を認めた上で、災害を受け流すような対策の仕方を取るように方向変換することが大切だと思う。その一つは補完機能(バックアップシステム)を用意することだ。これが第二東名高速や、第二の東海道新幹線ルートということになる。
首都機能(行政機能)を各地に分散設置することも必要になるだろう。

日本はお金持ちの国だから、何かあればすぐ箱モノを造って対応しようとする。造る前によく考えて、一度頭を冷やしてみることが大切だ。被害地は防災対策や復旧対策を強く要望する。現地としては当たり前のことだ。その要求を聞きながら、真っ向から防災対策のための箱モノや道路を造るのではなく、他に対策案がないかを考える余裕をもってチエを出したい。
 東北のリアス式海岸の奇麗さが巨大コンクリートの堤防で要塞のように守られる姿が津波対策の解であろうか?

 




2023年8月27日(日)
三菱MRJ(MSJ)の開発の頓挫(中止)について

 ホンダの小型(ベリーライトカテゴリー)ビジネスジェット(Honda Jet)は販売が好調で、生産が追いつかず納期待ちになっている。小型ビジネスジェット機分野で、断トツ 世界NO.1シェアを続けている。最初のモデルをベースにバージョンアップしたHondaJet EliteⅡを発売し、さらに2028年にライトジェットカテゴリーの11人乗りに拡張した機体の開発を進めている。これらのジェット機を活用した新ビジネスに参入するというニュースも発表された。これは富裕層外国人向けに日本国内の観光地の移動サービスを開始するそうだ。
 Hondaはますますビジネス領域の拡大を図っている。

 三菱MRJジェットは、日本航空機事業への本格的な参入の切り札として官民挙げて大きく注目され、本来なら既に日本の空はもちろん、世界の空に羽ばたいているはずだった。

 開発中止理由はアメリカ連邦航空局FAA型式認定が取れる見込みがたたないということで、これ以上開発継続はできないという判断に至ったそうだ。 まさに苦渋の決断だ。
 
 上空を試験飛行するMRJ

 航空機は、高度な技術と高い信頼性を要する部材が使われ、それを供給できるメーカは限られている。日本は機体や主翼など飛行機の主要な骨格部材を納入している実績がある。特に、東レや帝人のカーボン繊維が有名である。カーボン繊維は軽くて鉄より強いので、従来のアルミ合金やチタン合金から置き換えられている。ボーイングB787やエアバスなど最新ジェット旅客機の胴体や主翼に採用され、機体の軽量化や、強靭性によるキャビン内空気圧の向上などで、安全で快適なフライトが実現している。機体の軽量化は省燃費化や経費低減にも大きく貢献している。前出のHondaJetにも採用されている。

 このように、日本は航空機の重要部材サプライヤーとして実績を有しているが、ジェット旅客機を自前で製造するには至っていなかった。三菱重工が 2008年に乗客100人前後のリージョナルジェットと呼ばれる分野のジェット旅客機の開発に乗り出していた。
 
 以前の名機と言われたYS-11はプロペラ機で、ローカル空港の短い滑走路(1200m)で離着陸できる特徴を持っていた。YS-11の誕生は、国策として運輸省の後押しで、三菱重工その他企業の集合体で新設された日本航空機製造会社が開発・製造を行った。いろんな課題を克服して、改良が進められ、安全で安心できる機体になり、販売も伸びていたが、当時は航空機事業ノウハウがなく、コストの詰めが甘く、海外販売の宣伝等の経費や、交換部品のサービス体制等の不備等で、1970年度3月度は80億円、翌年度は145億円の赤字を計上。そこで182機の製造をもって事業を終了した。

 YS-11の製造・販売中止後、世界の航空機は進化し、日本は取り残された状況にあった。
日本の航空機産業を復活するため国土交通省が後押し、三菱重工が三菱航空機製造(株)を立ち上げ、2008年に本格的なジェット旅客機の開発に着手した。試作機は飛行に成功し、SAAの型式認定を取る段階で挫折に至った。要は、このままでは型式認定がいつ取れるか見通しがつかないので、開発中止を決断した。試作機は4号機まで進み、順調に試験飛行を続け、名古屋に試験飛行するための滑走路を施設し、本気に取り組んできた。なぜ中止になったのか?

開発中止とは一体、どういう経緯なのだろう? 不思議な話!

 FAAは型式証明に関わる膨大な審査作業をスムーズに進めるため、資格を認めた民間技術者に業務の一部を委託する仕組みがある。そうした技術者を招きMRJの開発を進めた。試作機ができた段階で、いろんな課題が指摘され、その対策に追われた。その都度、納期を延長してきた。開発に携わる技術者約2000人のうち、実に600人を外国人技術者が占めるほどになっていた。課題を克服するために開発体制は万全を期していたはずだ。

どうしてうまくゆかなかったのだろう?  
 米国へ輸出するにはFAAの型式証明が必要になる。その前に設計・製造国である日本政府の運輸省航空局の型式証明が必要になる。ここに大きな落とし穴があった!

 航空機の型式証明審査に関し、国際民間航空条約(シカゴ条約)は「設計国が世界に対し第一義的な責任を有する」と示されている。
 日本企業が日本での事業を審査する権限はなくMRJの設計や製造を審査し承認する責任を負うのは日本の航空局(JCAB)である。しかし関係者の多くの人が“FAAの型式証明を取る”ことに注力してきた。

 日本には旅客機の開発が無かったためJCABに新型旅客機の型式証明審査が行える常設部門はない。
  (YS-11、 MU-300はFAAの型式証明を取得した実績がある。)
 
MRJは、JCABとFAAの証明を同時に取得する方針で進めた。
 MRJの形は完成した。試作機も順調に飛行した。後は型式認定を残すのみの状態。そこで躓いた。
型式認定を得るには、要求事項を満たすことが条件であるが、MRJの設計ではこれが満たされない部分があったのだろう。それを満たすには、きな設計変更が必要になり、それは航空機の場合、設計のやり直し、一からの再設計だったはずだ。一部分の変更や改良では済まない内容を含んでいたのだろう。記事では『致命傷』と書いている。もう一つは、認定検査を進めてゆくと、次々と課題が指摘され、できるところは対応してきたが、想像以上に多くの指摘があったのではないだろうか。
 記事では、航空機の設計は、設計段階で認定側と相談しながら進めると書かれている。MRJは独自の技術を活かしたのは素晴らしいと思うが、認定側と事前了解が得られていなかったように考えられる。

 以前、ある会社でISO9001を取得する取り組みをしたことがある。ISOは品質国際規格で要求条件は明示されているが、取得側で各企業の実態に合われて、要求事項をどう解釈すればいいのか?という疑問にぶち当たった。そういう場合は、コンサルとよく相談して、取得事業所の実態に合わせて取り組み内容を決めて進めた。その後、ISO審査が行われたが、特に問題指摘はなく、取得ができた。

MRJの認定取得失敗の話はよく似ているように思う。
 規格の要求事項を満足するための設計、取り組み内容を両者で合意しておくことが重要だったのだ。いくら設計や製造や品質が良くても、認定側の要求事項が満たされたと認められなくては取得ができない。MRJは非常に高いものを失ったが、このままこのプロジェクトを止めてしまうのだろうか?
 今まで、試作機まで飛ばし積み上げてきた実績やノウハウを今後に生かすことができないのだろうか?という思いがする。

 いずれにしても今回は、巨額の開発費を投入したビッグプロジェクトが挫折した。これには日本国政府の開発支援金も含まれる。開発には失敗はつきものだが、その真因をきちんと把握して次につなげなければ、同じ失敗を繰り返す。日本には責任分析の甘さが目立つ。三菱航空機(三菱重工)は大きな損失を被ったが、日本政府、日本国民の期待や負担も大きい。互いの責任のなすり合いに終わらせないことが大切だ。

 ホンダジェットの大成功と、三菱ジェットMRJの失敗を見て、単なる技術力だけでないマネジメントの差に大きな違いがあるように感じる。






2023年8月26日(土)
『純粋』とはどう云うことか?

 辞書によれば、  英語では”pure"
 ・混じりけのないこと、雑多なものが混じっていないこと、またはその様
 ・邪念や私欲がないこと、気持ちに打算や駆け引きのないこと、またはその様
 ・そのことだけを一途に行うこと、またはその様
 ・哲学で、外的、偶然的なものを含まず、それ自体の内的な普遍性・必然性をさす
 ・学問で、応用を考えず理論だけを追求する分野
とある。

 『純粋』で思い浮かぶものは、蒸留水や、純粋ハチミツなど身近にいろいろあるが、一体“純粋”とはどういうことか? 
『純粋』とは、混じりけがない状態で、そのものずばりということ。
は、水素原子2個と酸素からなる分子(H2O)で、これが“純水”であり、他の有機物やミネラルなど異物や分子や原子やイオンが混じっていない水のこと。逆に言えば、普通の水にはいろんなものが溶けて混ざっているということ。

『清水(奇麗な水)』を造るには、普通の水をフィルター(不織布など)でこし分ければいい。一応見た目にはきれいな水になるが、これは純水ではない。フィルターを通過したいろんなものが混じっている。

純水を得る二つの方法
一つは、水の沸点を利用する方法。加熱して100℃の沸騰状態で蒸発する水蒸気を冷やして水に戻す。水に溶けていた他の物質の内、沸点が100℃以下のものは沸騰前に気化してしまい、100℃以上のものは容器内に気化しないで溶けた状態で残るので分離できる。得られた水は『蒸留水

二つ目は、イオン交換樹脂を通す方法。普通のフィルターで異物をこし分けた清水を使う。近年、半導体製造に必要な大量の純水を得る方法として使用されている。見た目はきれいな透明な水(清水)の中に各種の金属イオンやミネラル成分が含まれている。
これをイオン交換樹脂というフィルターを通すことで、陽イオンや陰イオンを吸着させ、逆にH2Oを生成させる。この方法で、超純水と呼ばれる混じりけのない水を得ている。

こう考えると、純粋なモノを作ることは難しい。さらに完全に純粋なモノを得ることは不可能と言える。純粋というものにも、いろんなランクがあるということ。理論上は純粋と言えば、完全に混じりけがない、そのものということだが、世の中には完全無欠ということは不可能と言える。だから必要に応じた『純粋度合い』、『純度』がある。必要以上の純度を得ようとすれば、非常に手間暇がかかりコストがかかる。工業的には、要求する純度を満たせばよいということになる。

 コロナ禍で、いろんな知識を学んだ。コロナがウイルスという病原体で発症することも分かった。コロナに罹ったかどうかを見つける手段として、PCR検査が行われることを知った。このPCR検査は特殊な培養液の中で、コロナウイルスの遺伝子だけを倍々ゲームで増殖(増幅)させて、普段は見えない遺伝子が試薬で反応するまで増殖する。この際に、他の物質が混じりこまないようにしなければならない。必要なもの以外が入ることを“コンターミネイト”という。薬品、化学、医学、半導体などの現場では、非常に厳しい管理を行い、コンターミネイトが起きないよう厳重に管理されている。

 純粋なモノと言えば水晶やダイヤモンドの結晶があげられる。シリコンや炭素原子が規則的に並んだ状態が結晶という姿になる。この水晶やダイヤモンドの結晶ですら、極くわずかな不純物が含まれている

 半導体を作るには、極くわずかな不純物が含まれていても性能が発揮できなくなるので、純度はできるだけ高くする必要がある。不純物が含まれる割合が、10-11というような超高純度シリコン結晶を造る必要がある。これを実現している。これは、10億個のシリコン原子の内、1個の不純物原子が含まれるという純度になる。多分、世の中で、一番純粋なものだと思う。
 (注)10-11は、イレブンナインと呼び、99.999999999 9が11個並ぶほど純粋な状態を示す。
     日本の人口は1億2000万人で、中国は約10倍の13億人であり、中国人の中に、一人だけ『変わり者』が居るような状態。
この純粋なシリコン結晶は、“結晶成長法”という方法で、シリコンを高温で溶かした炉から、シリコン結晶としてゆっくり引き上げて、結晶させながら作る。

 少し視点を変えて、純粋なモノを考えてみる。
 “良い音で音楽を聴きたい”という要望は昔から強くある。それに応えるために、オーディオ機器は発展してきた。最初はSPレコード盤から始まった。これは音の質が悪く、とにかくレコード盤で音楽が再生できることであった。その後、LPレコードに代わり、素晴らしい音質で音楽が聴けるようになった。しかし、LPレコードは何回か使えば、盤面に傷が着き、ほこりが溜まり、雑音や音質が悪くなる。その後、デジタル時代を迎え、CD(コンパクトディスク)が開発され、アッという間に、CDに変わった。

さて、この“音質の良さ”とはどういうことなのか?
 音はマイクで拾うと、電気信号として得られ、それをアンプで増幅してスピーカに加えると、再び音として再生できる。この音から電気信号に、電気信号から音に変換する際に、完全に変換が行われれば、再生音は元の音と全く変わらないが、現実はそうはならない。マイクで音を拾い、アンプで増幅し、スピーカで鳴らす際に、元の信号の変換時にわずかではあるがひずみが生じる。これが再生音を聞いた際に、元の音と何か違うということになる。いかに元の音を再生できるかが、商品の良さ(性能・品質)ということになる。

これを技術的に云うなら、“変換時に生じる歪をいかになくするかということになる。
“歪がゼロ”なら100%元の状態であるが、現実はそうはならない。しかし、100%に近づけることはできる。その取り組みが技術開発競争ということになる。そういう意味で、レコードがSP盤からLP盤になり、CDになったのはそういう歪を減らす技術の過程を示すものだ。

純粋という言葉は、混じりけがない状態を示すが、実は完全無欠の純粋はないという話でした。

 純金1グラム;1万円になりました純金地金(1kg)は1000万円
純金と言えど、100%金(Au)ではありません。純金として販売されている金は、99.99%の純度です。
 半導体シリコン流に言えば、99.99は、 フォーナインです。
 

 





2023年8月25日(金)
『アイスマン』の発見から約30年 その後の調べで何が分かった?

 
アイスマンの復元図
人懐っこい感じ、ヨーロッパ人に似ていますよね!

 考古学archaeology)は、人類が残した遺跡から出土した遺構などの物質文化の研究を通し、人類の活動とその変化を研究する学問である。歴史学は文字による記録・文献に基づく研究を行う。

 
遺構や石、金属などは長年残る可能性があり、それらを発掘することで当時の生活や人の生きざまを推測できる。しかし、一般的に人体は骨以外、腐食してしまい現在まで残ることはない。しかし氷河等の極低温環境下では腐食しないで残ることもある。これは大変珍しい。アイスマンで有名になった南アルプス地方で古代人の発見は歴史的に貴重な資料を得ることができた。その話を少しまとめてみた。

 アイスマン
は、1991年に南アルプスのイタリア・オーストリア国境付近のエッツ渓谷(3,210メートル)の氷河で見つかった。約5300年前(紀元前3300年頃)の男性の無傷で完全状態のミイラ である。発見した土地の名前を文字って“エッツィと名付けられた。

発見の経緯
 1991年9月19日、アルプス登山ルートから外れた場所を歩いていたドイツ、ニュルンベルクの観光客ヘルムートとエリカのジモン夫妻が氷河が溶けた雪の下からミイラ化した遺体を発見した。当初は遭難者の遺体として処理されたが、その周囲から見つかった物品が現代では見慣れない物だったため、司法解剖前にインスブルック大学の考古学者に見せたところ、ヨーロッパの青銅器時代前期の人物であることが判明した。

 1991年10月2日に行われた測量によって、オーストリア国境からイタリア側へ92.56メートル入った場所であることが判明しイタリアに引き渡され、ボルツァーノ県立考古学博物館で公開されている。現在もイタリア南チロル考古学研究所で調査が続けられている。アイスマンは普段は摂氏-6度、湿度99%の冷凍庫の中で保管され、2ヶ月に1度だけ無菌水を補給され冷凍庫の外に出される。
 2005年4月、愛知県で開催された愛・地球博には「アイスマン展」と題した展示会が名古屋ボストン美術館と豊橋自然史博物館で催された。

特徴
 2012年に初めて実施された解凍調査の結果、瞳、髪の色は茶色、肌の色は白色、身長160 cm、体重50 kg、骨からのデータにより年齢47歳前後、靴のサイズは26cm、筋肉質な体型だと解明された。利き手は左、血液型はO型、腰椎すべり症を患っており、つぼ治療をした痕もある。これは5300年前にヨーロッパのアルプス山脈付近に高度な医療技術があったことを示唆している。胃からはアイベックスなど数種類の動物の脂身やハーブが検出され、小麦に水を加えて加工した物も検出された。更に腸からは煤が検出されパンを食べていた可能性がある。腸に鞭虫が寄生しており、また靴紐にその寄生虫除去に効果があると考えられるポリポレン酸を含んだカンバタケをつけていた。
 作りかけの弓矢や精錬された銅製の斧を所持し、特に斧に用いられた銅の純度は99.7%であり、既に当時アルプス近辺で高度な銅の精錬技術があった事をうかがわせる。靴は靴底が丈夫な熊の毛皮で作られ、中には防寒の為か藁を詰めてあった。革のゲートルを着用していた。草を編んで作った服の上に外套を纏っており、外套は色違いの革を縦縞模様に継ぎ接いで作られており、ベルトにはフリントやスクレイパー、乾燥したキノコなどが入った小さい袋がついていた。頭には熊の毛皮で作られた顎紐付きのフードを被っていた。

 人類遺伝学者らのDNA遺伝学的調査により、アイスマンの父系の祖先を辿ることのできるY染色体はハプログループG2a2a1b(G-L91)であることが判明した。このハプログループは、現在のサルデーニャ島やコルシカ島の住民にみられるタイプである。またアイスマンの母系の祖先を辿ることのできるミトコンドリアDNAを解した結果ではハプログループK1であることが分かった。その他にも、アイスマンは、動脈硬化の要因になる遺伝子を持っていた。胃腸の遺伝子が分析から、アイスマンがピロリ菌に感染していたこともわかった。

死因
 彼の死亡の原因は様々な説が唱えられた。発見当初は凍死説が有力であったが、2001年X線撮影調査で左肩に矢尻が見つかり、これが死因である可能性が高まった。ただし、死体の解剖分析は極めて貴重な資料を損傷するとして許可されないため実証することが難しかった。2007年にチューリヒ大学などの研究チームが行ったコンピュータ断層撮影装置により、動脈付近の傷が分析され、動脈損傷による失血死であったことが実証された。右眼窩に骨にまで達する裂傷が認められ、更に後頭部に即死に至る量の脳内出血の痕跡があり、矢を放った者が止めを刺すため側頭部を石などの鈍器で殴り、倒れた際に後頭部を打ち付けたことによると推測された。また、彼を殺傷した矢の軸は見つかっておらず、殺害者が持ち帰った可能性があり、彼が左腕をあごの下に伸ばした不自然な格好で発見されたのはそのためと考えられる。
 アイスマンは発掘現場の周辺で採取した植物の分析から、標高700 mの麓に居住していたと推定されており、その地点では有史以前の遺跡も存在している。また付着した花粉分析から死亡時季は晩春と推定されているが、まだ残雪が大量に残っている季節に3,000 mを越える高地に登った理由は不明である。彼の胃や腸から検出された花粉からは、彼が死ぬ直前の数日間の間に、モミが生える標高の高い場所から一度低い場所に移動した後、またすぐにモミが生える場所へ行くという強行軍を行っていた事が推測された。アイスマンは部族間の争いに巻き込まれ、山を越えて逃亡する最中に死亡したという説の他、麓の牧人であり、放牧のために高地に登ってきた際に何らかの災難に遭ったという説もある。

 2010年、イタリアの考古学者がこれまでの説を否定し、アイスマンは麓で死亡した後に、発見場所に運ばれ埋葬された可能性が高いという説を発表している。その証左として、発見された装備品の多くが未完成のままであるという点と、胃の残存物から彼は4月頃に死亡したと推測されたものの、発見現場から8・9月頃の花粉が見つかっている点を挙げている。「麓の戦いで死に、(死亡時期の4月は積雪で登れないため)数ヶ月後に現場に埋められた」と結論付けている。
ただし、いずれにしても仮説の域をでないものであり、実証できる証拠はほとんどない。

 解凍調査の結果、瞳、髪の色は茶色、肌の色は白色となっているが、2012年に初めて実施されたゲノム解析結果からサルディニアアの近辺で、ヨーロッパ東部とコーカサス狩猟採集民が交雑した集団の子孫とされてきたが、今回、新しいゲノム解析によるとアナトリア(今のトルコ付近)農耕民の祖先だとされている。地中海と黒海付近の農耕民がヨーロッパへ拡散し地元の狩猟民との交雑(混血)したことを示している。

 こういう人種の交わりは、最新のDNA配列、Y染色体、ミトコンドリアDNAなどのゲノム解析、遺伝子分析により広範な人類の交雑系統図が描かれるようになった。いつ、どの地方に、どういう人種が生きていて、どの方面に移動し、その地方の住民とどう交雑して、どういう広がり、または退したのかなど、世界中の人類の移動、交雑(混血)の様子が分かるようになった。これは従来の考古学では考えられない知見を与えてくれることになり、従来の化石や遺骨や遺構などによる推察による学問から、一気に真実に迫れるようになってきた。
 この素晴らしい遺伝子ゲノム解析手法は遺伝子を構成する塩基配列がもとになる。遺伝子は、G・A・T・C(グアニン・アデニン・チミン・シトシン)という4個の塩基で、しかもA-T、G-Cが対になって構成されている。複雑な全ての生き物の遺伝子は、4個の塩基で表現される。10億以上の塩基配列を知ることで、ヒトならどういう変遷を繰り返してきたのかが分かる。

 アイスマンが今生きていたなら、ロシアのウクライナ侵攻について、どういう思いを抱くだろうか?
『もっと賢くなっていると思ったが、我が子孫は相変わらず闘いをやっているのだなあ!』 と
 





2023年8月24日(木)
生物はどうして季節を感じるのだろう?

 この夏もやっと“処暑”が過ぎたが、猛暑はまだ続いている。しかし耐えられない暑さは峠を越したようだ。クマゼミの大合唱が終わり、朝夕はすっかり“ツクツクボウシ”に入れ替わった。ツクツクボウシの鳴き声を聞くと、夏が終わり、秋が近づいてきたことを感じる。季節の見事な変わり方だ!

 そこで、「生き物(動物・植物)がどうして季節の移り変わりを感じ取るのか?」という疑問にぶち当たる。春には花が咲き、新芽が伸び、秋には実が成り、子孫を残す。この生物の営みがどうして間違いなく行われるか? 今なお、明解な答えはない。

 例えば、セミは長い間、枯葉等の堆積した土中でスクモで生活し、7年後に地上に出て、蛹(さなぎ)になり孵化してセミに変わる。これは昆虫の変態と言われる見事な変身である。小学校の理科で教えられたことだが、ではどうして彼らはその時間をカウントし間違いなく変態を行うのだろう?

 他にもっと正確な生命活動の例として、サンゴ礁の産卵がある。これは太陽と月、地球が一直線に並ぶ日、すなわち大潮の日に行われる。その他の魚貝類でも、産卵の日は決まっていることが多い。彼らは、我々が使っている暦や時計など、季節や時刻を知る特別な観測機を持っているわけではない。

 どうしてそういう命をつなぐ活動が繰り返し行われるのだろう?
 身近で、日常的な季節の移り替わりの自然の中で生きていると、そういう単純な疑問に何も感じなくなっている。生き物には、季節や、日照時間や、温度、湿度等の変化を知ることができるセンサーを体内に持っているのではないかと思われる。いわゆる体内時計、
 生き物(動物・植物)はタンパク質、脂肪、糖質などの有機物や、骨などの無機物でできている。それらは細胞分裂により生成され、細胞破壊で壊されて、新陳代謝して入れ替わっている。
 
 動物には神経細胞があるので、聴覚、視覚、臭覚、味覚、触覚と言われる五感でいろんな状況判断をして生きている。植物にはそういうものがない。しかし、春には花が咲き新芽が伸びる。その生物を構成する各細胞に、そういう感覚を持つセンサーがあるのではないかと思う。

 そういえば、最近の電子工学分野で人間の五感を代替できるいろんなセンサーが登場している。視覚は、目に変わるセンサーとして、CMOSセンサーがあり、最近のカメラやスマホにたくさん搭載されている。高級一眼カメラでは人の目より優れた画像解像度を持ったものまで登場している。
 聴覚は耳で感じるが、道具としてはマイクロフォン、スピーカが昔から使われてきた。この分野では画期的な進展はなく、原理的には昔からある原理を生かした構造になっている。
 最近、匂い(臭い)味(味わい)を感じるセンサーも開発されてきた。触覚の面では、ロボットが部品をつかむ際の指先の感覚をセンサーで代替できるものが開発されている。圧力センサーという部品だ。
 
 現在、五感の内で一番進んでいるのが、視覚センサーだろう。昔から、『百聞は一見に如かず』と言われているが、視覚の意義、刺激度は非常に大きく重要な情報である。これは半導体の進化のおかげで見事にブレークスルーを図った。

 話が少し逸れたので、元に戻す。
動物は五感が発達し、各感覚器官は自分が生き残れるように一層その性能を磨いて進化を遂げてきた。犬の臭覚は人の臭覚の100倍敏感だと言われる。動物は移動ができる強みを持っているので、季節などの周囲の変化に対しては、どちらかと言えば鈍感な感じがする。
 一方植物は、種が生えたその地でしか育ち生きることができない分、季節を感じる力を鋭く有している。

 生物のどの部分に、どういう仕組みで、季節や時間(時刻)を感じることができるのか?
 これは今なお、よくわかっていない。もし、これが特定できれば、我われの新しいセンサーとして活用できる道が開ける。

 余りに身近なことなので、日ごろ何も感じることなく過ごしているが、ちょっと立ち止まって考えてみると、不思議な気がする。ツクツクボウシの鳴き声を聞きながら、徒然なるままに書いている。
今日は久しぶりの雨が降り、猛暑から脱出できた。






2023年8月15日(火)
ホンダが新ビジネスに参入か?
(台風7号の来襲で、家に閉じこもって思うこと)


湯たんぽのガソリンタンクを積むレトロなホンダバイク
自転車にエンジン、駆動はVベルト

  ホンダと言えば、本田宗一郎氏が自転車にガソリンエンジンを積み、湯たんぽをガソリンタンクに使った簡易バイクを発明し、その後、ベンリー号、ドリーム号など立て続けに大ヒットバイクを製造販売し、さらに、N360で軽自動車に進出し、その先は4輪自動車を次々と展開し、ホンダ車や世界を制覇したCBシリーズのバイクを製造販売している世界的自動車メーカに成長した。
 
 本田宗一郎氏は『創業者魂』と言える独自の哲学を有し、『ホンダスピリットは技術者としての魂、熱意、チャレンジ精神』を意味します。『世の中にないものを造る』という高いハードルを掲げて取り組みました。
 そして、『バイク、自動車、その先は飛行機を作りたい』と常々話されていたということです。しかし、飛行機の製造販売は存命中に実現出来ませんでした。

 しかし、その思いは受け継がれて、ついに、陽の目を見ることになりました。ホンダジェットの誕生です。その後、ホンダジェットの販売開始に至りました。
 
 

 航空機を製造、販売するには非常に厳しい型式認定審査があり、アメリカ合衆国FAAがその代表です。
日本は国土交通省が担当していますが、FAAに準じる立場です。
認定内容は、耐空証明AC(Airworthiness Certificate)C of A (Certificates of Airworthiness) があり、航空機を飛行させるために必要となる証明です。
 耐空証明の基準には、強度・構造・性能についての基準・騒音の基準・発動機の排出物の基準があり、強度・構造・性能について航空機自体の安全性を確保するためのものです。安全性と環境負荷に対する厳しい基準です。
耐空証明は個別の機体がこれらの各基準を満たしているかどうかを判定します。
型式証明TC (Type Certificates) とも言われ、航空機の開発時に必要な証明で、予め開発段階で設計や製造過程の検査を行っておくことで耐空証明検査で重複する部分の検査を省略できるようにする制度であり、型式証明の基準は耐空証明の基準と同じものを用います

 三菱 MRJは、90人前後のリージョナルジェット旅客機クラスで、YS11に次ぐ次世代日の丸旅客機として注目され期待されましたが、型式証明取得ができず、開発をリタイアしました
 航空機の開発には巨額の費用が掛かり、国策として位置づけられ多額の補助金を出して支援しましたが、事業中止が決定され、MRJプロジェクトは頓挫しました。それほど型式認証は厳しく審査されます。

 その理由は、飛行機はトラブルが起きれば、墜落する乗り物だからです。
どんなトラブルが起きても2重3重の対策が施され、安全に運行できることが求められます。加えて、万一、トラブルや故障が起きた場合でも、安全が確保できるよう“Fail safe”を満たす設計が求められます。

 ホンダはジェットエンジンも自社開発、高効率・低燃費ジェットエンジン開発に成功しました。
ちなみに、航空機製造会社が、ジェットエンジンまで自前で開発することは非常にまれなことだそうです。
 ボーイングやエアバス、その他航空機製造会社は、GEか、ロールスロイスか、プラットアンドホイットニーの3社からエンジンを購入するのが常識です。
 
  ホンダが自社開発に成功したジェットエンジン ターボファン  HF120 

 ホンダジェットが大ヒットし、成功した背は、ホンダの魂である『よそのまねはしない』という反骨精神が生んだ賜物です。それはジェットエンジンを主翼の上に取り付けるというホンダ独自の発想です。
 これは、開発担当責任者の藤野さん(現在、ホンダエアクラフト会長)が夢に見た構想で、それをメモにして書きとめ、実現したものだそうです。この主翼の上にエンジンを取り付けることは、タブーと言われていましたが、藤野さんは綿密な流体解析を行った結果、『ある一点にスイートスポットがある』ことを見出して、空洞実験を重ねた結果、生まれたユニークなジェット機です。
この大ヒットHondaJetをベースに、エリートエリートⅡ発売、さらにサイズアップした2600開発中

  開発中 Hondajet 2600  2028年発売予定 (10人+パイロット1人)
   
 
  上図は、セスナサイテーション 機体後方左右にジェットエンジンが取りついている


 これにより、従来の小型ジェットでは、機体の後方左右に2つのエンジンを取り付けるという常識を破り、その結果、キャビンが広くなり、騒音が少なくなり、超高度飛行が可能になり燃費が良くなるという良いこと尽くめのホンダジェットが生まれました。

 これは、後発組として事業に参入し成功するためには、何か核心的な部分で他社のまねをしないで難題をクリアすることが勝つことができるという事例です。
人マネでは先行者の方が有利で、後追いでは勝てないということを示しています。

 ホンダは、アメリカに子会社(アメリカホンダ エアークラフト社)を立ち上げ、量産に入り、その後、小型ジェット機分野では世界NO.1シェアを維持しています。
 現在、世界の富裕層や上級ビジネスマンの移動に、パーソナルユース機として愛用されています。

このホンダジェットを使い、日本国内の観光地を廻るトラベラービジネスを来年より始めるようです。
ホンダは新興旅行会社(双日??)と提携し、訪日富裕層を対象にホンダジェットを使い、地方の観光地への移動サービスを2024年前半に始めると発表。
 日本は北海道から本州、四国、九州、沖縄と、東西・南北で3000kmにわたり伸びていますので、効率よく観光地を回る手段がありませんでした。

 欧米には、考えられないような富裕層が沢山居ますので、そういう観光客にホンダジェットを使い、効率よく移動して観光を楽しんでもらおうという新しいビジネスプランです。
各観光地でのいろんな体験型サービスとパッケージで販売し、富裕層の誘致を一層進める考えです。

 政府は3月末に閣議決定した「観光立国推進基本計画」に訪日外国人旅行一人当たり消費額単価19年の15.9万円から25年までに20万円UPする目標を盛りこんでいます。

 ちなみに、世界の観光産業は、全世界のGDPの9%を占めています
これは、観光による収入(観光輸出額)が1.4兆ドル(約200兆円)になるほど多額です。
 日本が世界平均観光収入(0.9%)を稼ぐとすれば、 57兆円($レート;130円)となります。

 モノを輸出すると、相手国からいろんな規制や課題が生じますが、観光収入はそういう問題はありません。ハード(モノの輸出)で稼ぐか、観光というソフトで稼ぐかです。
観光事業はサービス業ですから、関わる人の雇用を生み、地域が活性化します。

観光収入の世界ランキング (少し古い資料(2013年)です)
 1位 アメリカ        6977万人
 2位 スペイン        6066万人
 3位 フランス
 4位 中国
 5位 マカオ
 6位 イギリス
 7位 イタリア
 ・・・
 21位 日本   訪日外国人 1036万人

その後、順調に訪日観光客が増えましたが、コロナ禍で急激に減少しました。
政府目標は?
 2019年    3188万人(この年がピーク)
 コロナ禍で激減(鎖国状態)
 2022年     383万人
 2023年     864万人(予想、大分回復基調になってきた)
 
2030年  6000万人目標

目標実現の課題は?
 日本はアジア人観光客が多く、一人当たり観光客単価がヨーロッパの観光国に比べ低くなっています。
外国人観光客人数を増やす政策と同時に、客単価を上げることで、観光収入の大幅増を目論んでいます。
その一つが今回のホンダジェットを活用したプレミアムツアーの計画です。
そのためには、地方空港の整備、道路の整備、ホテルの充実、その他の環境を整え、古い規制を撤廃して、国内航空路の開放等が必要です。
ここにきて、いよいよ、動きが鈍い政府も動き出したようです。
そんな新しい富裕層の外国人観光客

以上、徒然なるままに書いてみました。
台風7号は、午前中少々風が吹きましたが、午後2時現在、曇り空、無風状態です。
外気温25.8℃  湿度94%  蒸し暑くなっています。






2023年7月29日(土)
「やりがい」と「働きがい」
すぐやめる新入社員が増えてきたことに対する思い!

  「梅雨明け10日」という言い伝えがあり、雨が続き、じめじめした梅雨が明けると晴天が10日も続くということですが、今年は梅雨明けは少し例年より遅れましたが、その後猛暑日が続いています。

 その猛暑が異常な状況で、しかも地球全体が熱くなり、異常気象による災害があちこちで発生しています。
そろそろ人類の活動が地球の自然循環のキャパを越えるレベルまで達し、このままでは今まで経験したことが無いさらなる異常気象が起きることを危惧します。

 ヨーロッパ各地で熱波による山火事が起きています。さらにロシアの首都、モスクワでは洪水が起きているという話です。猛烈な雨と都市インフラの問題が重なっているそうです。天災と人災が重なったということです。ロシアのネットでは「神の怒りを買った」と言われています。

前置きはこの程度にして、本論に入ります。

 最近、学校を卒業し、厳しい就職活動に成功し入社した社員が、数か月、いや一月も経たない内に辞める人が増えているという話をよく聞きます。企業規模にかかわらずこの傾向がありますが、特に中小企業で多いようです。

 辞めた新人の話を聞くと、「期待して入ったがやりがいを感じられない」ということです。
社会人(会社員)として働き、給料をもらうことがどういうことなのかを理解していないのです。会社が学校の延長線にあると誤解しています。というか何も考えていないのでしょうか。

ある会社の新入社員教育担当者の声ですが、
 職場の先輩や上司が、「これをこうやってね」と教えると、そこまでは学ぶけど、次、自分からはやらない。
「今やるんだよ、こうなったらやるんだよ」と言われると、言われた時に言われたことまではやるが、その後は座って何もしないで待っている。まるで学校に来ているかのように。
 「何故やらないの?」と、問うと「やることを指示して下さい」と悪気なく返事が戻ってくる。
 
 言われたことはちゃんとやる。それ以上やることができない。
「マニュアルを見せて下さい」ということもある。
理解したルールはきっちりする、理解できなければやらない。それ以上、自分からは動かない。

プロフェッショナル(仕事をしてお金をもらう)とはどういうことか?をなかなか理解できない新入社員が多い。

 それでいて、新入社員(本人)は、「この会社(職場)は自分が考えていたやりがい(働きがい)がない」ということで、すぐに辞める。

一時、世間でよく言われた「指示ち人間」が非常に増えてきたようだ!
このことは、各企業で新人教育や、新人を迎えた職場ではよく見られる状況だ。

これでは、雇う方も雇われる方も、互いの思いがミスマッチングで、雇う側の戦力アップの期待や、新入社員の社会人としての第一歩の期待が裏切られる。互いに不幸だ。

この状態をどうすれば解消できるのか?
そこで、「生き甲斐」や、「やりがい」や、「働きがい」という言葉に着目して考えてみた。

・・・甲斐(かい)」は、何か「事」に取り組み、その結果目標や課題を解決し、達成することで生じるもの
それには、二つの状況
 ・バーチャルなもの;認められる、喜ばれる、
 ・リアルで具体的なもの;地位が上がる、報酬が増える
がある。

 「やりがい」とは何かに取り組んだ結果、やった甲斐があったと自分で満足できること
  無報酬の取り組み事例;趣味の会、ボランティア、自治会活動、児童通学路の見回りなど
  報酬を期待した取り組み;会社(職場)での仕事、

 「働きがい」とは仕事に取り組み、成果を出して、評価され、報酬につながることで感じる喜び

そう考えると、「やりがい」は、報酬、無報酬に関わらず自らの行動によ生じる成果に感じる喜びと言えそう。
「働きがい」は「やりがい」の内で、報酬に繋がる自らの行動や行為についてである。

 よく似た言葉に「生き甲斐」がある。
 感覚的に「生き甲斐」>「やりがい」>「働きがい」という概念の広がりを感じる。

そう考えると、新入社員をどうすれば職場に定着させることができるか?
「働きがい」のある職場だと感じるような雰囲気、取り組みが必要になる。
一方で、学校とは違う社会人としての自立を促し、職業人として求められる立場を理解させることが肝。

しかし、いくら理屈を言っても、人は動かないことも事実だ。
行き着くところ、
山本五十六の言葉
「やってみせ、言って聞かせて、 させてみせ、 ほめてやらねば、人は動かじ。
 話し合い、耳を傾け、承認し、 任せてやらねば、人は育たず。
 やっている、姿を感謝で見守って、 信頼せねば、人は実らず。」


 この言葉にすべてが集約されている。

DX時代となる現在、こういう指導ができる人がどのくらい居るかが問われる。

 自分の独断と偏見で書いてみましたので、悪しからず!!






2023年7月16日(日)
飛行機はどうして「速度」が分かるのか?
空中を飛びながら、速度が分かるのはなぜ?

 飛行機の速さには2種類の速さ(速度)がある。飛んでいる空中の空気に対する速さ対気速度と、地面に対する速さ対地速度である。
 
 海外旅行をされた人は気づいていると思うが、飛行機に乗り東向きに飛ぶ(例えば、成田空港からロサンジェルスに向かう)時と、逆に同じコースを西向きに飛ぶ(ロサンジェルスから成田空港に向かう)時の所要時間が大きく異なる。東向きに飛ぶ時の方が数時間も短い。その理由は、上空には強い偏西風やジェット気流が東向きに吹いているから、飛行機は気流に大師、フォローかアゲインストで飛ぶかで速度が変わる。
 
 飛行機が落ちないで飛べるのは、空気に対する速さにより生じる揚力が機体の重力に打ち勝つことで可能となる。そういう意味では、対気速度が重要な要素になる。一方、目的地に何時に着けるかという課題に対しては、対地速度が分からないと答えが出ない。

 ■対気速度知るには、古くからピトー管が使われている。ピトー管の原理は、7月8日の記事で紹介した『ベルヌーイの法則』による。ベルヌーイの法則とは、

 
 の『エネルギーの総和は一定』ということを示し、「流体のエネルギー保存の法則」とも呼ばれる。

 ここで各項目の単位は、
  ・ρ(ロー):流体の密度〔kg/m
  ・
     :流速〔m/s〕
  ・
     :圧力〔pa〕
  ・
     :重力加速度〔m/s2
  ・
     :高さ〔m〕
 
 運動エネルギー動圧圧力エネルギーと位置エネルギー静圧動圧と静圧の和を全圧と言う。
 
 
 ピトー管は全圧と静圧の2つを直接測定し、その差である動圧を間接的に求める事で、流速を計算で求めるようにした測定器です。
 

 ピトー管の先端は流れを遮るため瞬間的に流速が0となり、ベルヌーイの定理より運動エネルギーが圧力に変換され「全圧」が検出されます。このような点を「よどみ点」と言います。一方、ピトー管の側面は流れを遮らないため「静圧」のみが検出されます。 検出された「全圧」と「静圧」の差で「動圧」が分かりますから、この動圧から流速を求める事ができます。

 イメージとしては、走行する車から手を外に出した際、風を受ける面では力を感じますが、その他の面では大気圧しか受けません。この差圧(圧力差)に注目して速度を求めているのです。

 ■計算方法
 ピトー管で検出した全圧pと静圧pの差圧が動圧なので、 -p=1/2・ρV2
  速度Vは、  V=√2(p-p)ρ 
で求められる。
 (注)式の右項は、全体に√(平方根)がかかっている。表示の都合上、√2のようになっている。
 
 
 ホンダジェット  赤い丸印のところにピトー管が取付けられている

 ■対地速度を知るにはどうするか?
飛行機は空中を飛んでいるので、自動車のように車輪の回転から速度を知ることはできない。

音波や電波などは、信号源から発射する波はある物体に当り反射して戻ってくる。この時、信号源が移動していると、戻ってくる信号(音や電波など)の周波数や位相が信号源の速さにより変わるという性質を利用する。例えば、救急車が近づいてくる時の『ピーポー・ピーポー』の音と、遠ざかる時の音が違うので、すぐに判断できる。また、F1レースなど見ている時も、目の前を通過する際にエンジン音が変わることを経験できる。この音の変化をドップラー効果と呼んでいる。

ドップラー効果は音以外の波でも生じる。電波も電磁波という一種の波なので、ドップラー効果が生じる。
これを使って対地速度を測定する。

 ■電波高度計は、飛行機の機体の腹部に送信・受信アンテナを取り付け、機体の真下の方向に電波を発射して、その反射波を受信アンテナで受信する時間差で、高度を計測する。(7月15日参照)

 これに対し、対地速度計は、飛行機の前方、斜め下向きに鋭い指向性を持った電波を発射すると、地面に当たった電波は反射して戻ってくるが、その際、発射した電波の周波数より少し高くなる。この周波数の変位を計測して速度を割り出すのが、対地速度計(ドップラーレーダー)である。
 
 その原理について
 周波数と波長と伝番速度の関係は、 V=f×λ   伝番速度=周波数×波長
 電波の場合; C=f・λ     C;光速
 位相  θ=2π×2R/λ=4πR/λ    ・・・・・・・①
    R:反射物体までの距離
    λ:波長

 ①を時間tで微分すると角速度が得られる、
      ω′=dθ/dt=4πV/λ      ・・・・・・・・②

 一方、角速度 ω=2πf           ・・・・・・・・③   
    f;ドップラー周波数
 
 ②と③から、 2πfd=4πV/λ
 照射角;θ度の場合は、
    fd=2V・cosθ/λ  
  ∴ V=fd・λ/2・cosθ
 ここで、λ=C/f   波長=電波の速さ(光の速さ)÷レーダ周波数(キャリア周波数)  
 だから対地速度;Vは、
    V=fd・C/2fcosθ〔m/s〕   ・・・・・・・・・④
 

 ■例題;第一級陸上無線技術士国家試験問題より
 
 ■解答;上記、④式に当てはめると
   V=(1000×3×10)÷(2×10×10×0.9)
    =16.6〔m/s〕
    =16.6×3600÷1000≒60〔km/h〕

飛行機は巡行時には対気速度を見ながら、時々、対地速度を見て、最近はGPSにより、位置を確認しながら安全な運航をしている。少し、ややこしい話になったが、電波はいろんなことに役立つことが分かる。





2023年7月15日(土)
飛行機はどうして「高度」が分かるのか?
3種類の高度計の長所・短所と使い分け

 飛行機が安全に空を飛ぶためには、飛んでいる位置、高さ(高度)が分かる必要がある。高度を知るにはいくつかの方法がある。気圧を測定する方法は昔からいろんな方法が使われてきた。高度が高くなると気圧が低くなる。高度が12,000mまでは高さに比例して気圧が下がることが分かっている。
だから、気圧を測定すれば、高度が分かる。9m高くなる毎に、1hp(ヘクトパスカル)気圧が下がる。

 ただし、気圧は天気により、また場所により変動する。

 ■気圧高度計には、2つの種類がある。
 ①海抜0mの高度を基準とする方法;QNH
 ②1013hp=0m(=29.9inHg(水銀柱・インチ))として計測する方法;QNE

 現在も、航空機は巡行飛行では、気圧高度計を使用
して飛んでいる。
 ただ、気圧高度計は、地上の気圧が常に変動しているので、都度、地上から気圧の報告を受け、計器の修正が必要になる。

 飛行機が着陸するときは、時々刻々と高度が変わり、常に正しい高度を知ることが重要になる。
これには、電波高度計を使用する。(対地接近警報も電波高度計を利用する)

 電波高度計の理屈は、飛行機の腹面に取り付けた送信アンテナから電波を送信し、地表で反射して戻ってくる電波を受信アンテナで受取り、送信・受信の時間差をカウントし高度を算出する。その際、強力な電波を発射すると、地表の他の通信に妨害を与えることになるので、できるだけ微弱な電波を使用するよう工夫されている。

 電波高度計は主に着陸時に使用する。地上のマーカービーコンから送られてくる電波を受信して、マーカ通過時の高度を自動的にカウントし、コクピットにアナウンスするようになっている。
 高度が760m(2500ft)以下で、高度の精度は非常に高い。
電波高度計は、気象条件や地形に左右されないので、絶対高度計と言われている。
この基本的な動作原理は下記のとおり。使用電波の周波数;4300MHz


 次は、最近、GPSを使ったGPS高度計も現れた。
4つのGPS衛星の電波を受信し、3つの電波でX,Y,Z 3次元座標を確定し、あと一つで測位時間補正を行う。着陸時にILSの代替として使用できるところまで精度が上がってきた。さらに精度を上げるには、もう一つ衛星の電波を受信する方法も採用されるようになった。





2023年7月8日(土)
飛行機はどうして安全に離着陸できるのか?
安全運航をサポートするILSとは?

  世界中で、無数と言えるほど沢山の飛行機が運行され離着陸を行っている。その様子は、フライトレーダー(https://www.flightradar24.com)というサイトで、世界中の飛行中の航空機が表示されています。
是非、アクセスしてご覧ください。

 昼夜を問わず運行される航空機は、電子機器や通信技術の発達により、安全に飛行し、離着陸できるようになった。国際航空路を飛行する場合、途中の天候の悪化や、航路からのズレなど思わぬアクシデントに遭遇する。機体や機器、エンジンの不具合、トラブルも発生することがある。そういう緊急事態に対し、航空機は2重3重の安全対策が施されている。

 30年ほど前、国際線は到着時刻が大幅に遅れるのが常であった。出張者を空港に迎えに行くことがよくあったが、到着出口の時刻表示板がパラパラパラと音を立てながら変わることをよく目にした。
 最近、到着予定が大きく変わることが少なくなり、定刻どおりの着陸が当たり前になった。
 5000kmとか1万kmも飛んできて、分単位に着陸することは非常に難しい。それが今、実現している。
それをサポートしているのが、GPSとプログラムされた飛行計画に則ったNAVIシステムだ。

 高高度を巡行しているジェット旅客機は事故が非常に少なくなっている。これは航空機の安全対策が行き届き、厳しい規格や検査やメンテナンスにより、トラブルの発生を抑えているからだ。

 飛行機事故のほとんどは離着陸時に起きている巡行時はエンジン負荷も軽く、高高度の安定した気流条件で水平飛行するため、トラブル要因は少ない。最近は自動操縦システムによりパイロットは巡行飛行中は計器を眺めているだけでいい。
 
 飛行機は滑走路から離陸し、上昇し、巡行飛行に移り目的地に向かい、目的地に着陸する。
この離陸と着陸時には機体の操縦が必要になる。気象条件は飛ぶたびに違う。搭乗客数や貨物の積載重量は毎回変わる。そういう条件が変わる下で、絶対安全な離陸や着陸を行わなければならない。

 そこで、航路の所々や、空港近辺や、滑走路付近にはいろいろな支援設備が設置されている。
その内、着陸をサポートするシステムとして、ILS(Instrument Landing System;計器着陸システム)と呼ばれる設備が主要な空港に設置されている。これにより、悪天候や霧が深い中で滑走路が見えない状態でも、安全に着陸ができる。

 離着陸時の事故件数を見ると、着陸時の事故は離陸時に比べて約10倍ほど多いと言われる。
着陸時は飛行速度を落としながら滑走路に向かい、着地点にうまく接地しなければならない。速度が速すぎれば、着地点を通り越し、速度が遅すぎれば最悪失速状態になる。微妙なコントロールをしながら、うまく着地させることが要求される。それを実現したのが、ILSである。
 
 離陸時は滑走路のセンターラインに沿って加速し、規定の速度に達すれば操縦桿を引くと機体が上向いて離陸する。この時、エンジンがフルパワーを出している。そのまま規定の高度に達すれば、向かう目的地の方に進路を変え、巡行飛行に移る。

 パイロットは、離陸と着陸のどちらのほうが緊張するかという問いに対しては、離陸時だという。
その理由は特に国際路線など長距離飛行の場合、羽根に燃料を満タン積載しているので、何かトラブルがあれば大事故につながりやすいからだという。大型機のボーイングB777が国際線(約1万km)を飛ぶ場合、17万リットル(ドラム缶850本:200L/缶)、重量が140トンの燃料を積載している。

 では、離着陸時の飛行機の時速はどの程度かは、機種や積載貨物や乗客数などにもよるが、おおむね着陸時は200km/時~250km/時であり、離陸時は250km/時~300km/時になっている。
 着陸時の方が、50km/時ぐらい遅いようだ。これは燃料がほとんど空の状態になっているため。


 それでは、着陸を安全に行うためのILSについての説明する。
 悪天候でも、飛行機が安全に離着陸できるわけは?

 飛行機は離着陸時が最も危険だと言われる。過去の飛行機事故の90%以上が離着陸時に起きている。さらに、離陸時よりも着陸時の事故が断トツに多い
 離陸時の3分間、着陸時の8分間、合わせて
『魔の11分』と言われている。
 
 離陸時は滑走路のセンターラインに沿ってフルパワーで加速して、離陸可能速度(280km/時前後)に達すれば、パイロットが操縦桿を引くと機体が上向きになる。すると揚力が機体重量より大きくなり、離陸する。あとは一定以上の高度になるまで上昇し続け水平飛行に移る。その後はスロットル(車のアクセルに相当)を絞ってエンジンパワーを下げ、巡行速度に設定する。
 離着陸時は揚力を稼ぐため、翼に収納しているフラップを出し、翼の面積を最大にする。

 飛行機が飛び続けられるのは、常に機体の重力(地球の引力)に対して、翼が空気から受ける揚力がバランスしているからだ
揚力
は翼の上面と下面を流れる空気の速さの差により生じる。翼の形状は上部が膨らんでいるので、上部を流れる空気が下部を流れる空気より経路が長く、そのため流速が速くなるにつれ下から上に力が生じる。これを揚力と呼ぶ。

 
 
これは、流体におけるエネルギー保存の法則、「ベルヌーイの定理として、よく知られている。
 
 P+ρV2/2+ρgh=一定
     P;圧力(力)
    ρ;密度
     V;速度
     g;重力加速度
     h;高さ
 
この式は、空気やガス、水や液体など流体において、エネルギーの和は変わらないことを示している。
 圧力
Pと、運動エネルギーρV2/2と、ρgh位置エネルギー和は一定である。
 
 
 飛行機の場合、ρgh;位置エネルギーは無視できる。

 速度
Vが大きくなると、翼上部の空気の速度が速いので、この部分の圧力Pが下がる。
即ち、上向きの力が生じ、この揚力で、飛行機は重力に打ち勝ち、落ちないで飛び続けることができる。

 ジャンボジェット旅客機や大型輸送機や大型爆撃機などは機体の重量(最大離陸重量)が300トン~400トンもあり、このような巨体が宙に浮くため大きな揚力が必要になる。
下の写真は、戦略爆撃機B52  巨大な羽根、大きなフラップが見える。
大きな推力を得るため、ターボファンジェットエンジンを左右に4基(計8基)搭載する。
 


 では、飛行機事故が一番大きいと言われる着陸について考えてみよう。
巡航速度で飛んできた航空機が滑走路が近づき着陸態勢に入ると、徐々にスロットルを絞り、エンジンパワーを下げると速度が下がり、揚力が減り、次第に降下を始める。
 
 最終着陸態勢に入ると、フラップを出して揚力を稼ぎながら速度を着陸速度まで下げ、滑走路の着陸点付近で着地させる。この時の時速は300km/時ぐらいである。この速度を
VREFという。

 以上は、離着陸で行われる操縦であるが、昔の航空機はパイロットの技量で行っていた。
だから風や雨や霧などの悪天候により、見通しが悪かったり、機体が揺れたり傾いたりし、人為的なミス
滑走路にうまく進入できず、着陸失敗の事故が生じた。


 現在、世界中で、無数の航空機が離着陸しているが、ほとんど事故が生じないのはなぜだろう?
それは、
ILS(Instrument Landing System;計器着陸システム)という計器が搭載され、着陸時にパイロットの操縦を手助けしているからだ。

もう少し詳しく見ると、航空機が安全に着陸するには、3つの要素が必要になる。
 ・着地地点までの距離;
マーカビーコン(MB)
 ・着陸地点までの進入角度のズレ;
グライドパス(GP)または、グライドスロープ
 ・滑走路センターラインからのズレ;
ローカライザー(LOC)

 飛行速度には、対地速度対気速度の2種類があり、揚力は対気速度で決まる
向かい風の場合は対気速度が大きくなる。逆に追い風の場合は対気速度は減る。
 だから、できるだけ揚力を稼ぐため、風に向かって離陸し、風に向かって着陸する。

 着陸時の『3つの要素』を満たすように電波を使い自動化したのが、ILS(計器着陸装置)である。
具体的にどういうふうに実現しているのか、下図で説明する。

   
  
■一つ目;着地点までの距離;滑走路から進入路(センターラインの延長線上)上空に指向性のある  電波(75MHz)を発射。着地点から近い順番に3か所、電波放射地が設置されている。
 ・インナーマーカー(IM):変調周波数3KHz;着地点より約200ⅿのところ;飛行高度10m
 ・ミドルマーカー(MM):変調周波数1.3KHz;着地点より約1km~1.5kmのところ;飛行高度50m
 ・アウターマーカー(OM):変調周波数400Hz;着地点より約7km~11kmのところ;飛行高度500m
 航空機が、この電波の上を通過すると、計器の指針が逆に振れるので、マーカ通過が確認できる。
 それにより、着地点までの距離を知ることができる

■二つ目;進入角度に対する傾きのズレを検出、修正する(上図の断面図)
 グライドパス(GP);進入角からのズレを修正する。
   滑走路の着地点から斜め上向きに3°で指向性の強い電波を発射している。
   周波数は329.3MHz~335MHz
   図のように、上側に90Hz、下側に150Hzで変調した電波を使用
   飛行機が侵入しているとき、90Hzの音が大きければ、進入角が規定より大きい。
   150Hzが大きければ、進入角が規定より小さく、下がりすぎ。
   90Hzと150Hzの信号が同じ強さであれば、進入角が正常の3度になっていることが分かる。
 
■三つ目;センターラインからの左・右方向のズレの検出と修正(上図の平面図)
 ローカライザー(LOC);滑走路のセンターラインに対して左右のズレを修正する。
   滑走路の端末、センターライン延長上にアンテナを設置し、108.1MHz~111.95MHz
   右側に150Hz、左側に90Hzで変調した指向性の強い電波を発射している。
   150Hzの信号が強い場合は、センターより右にズレている。
   90Hzの信号が強ければ、センターラインから左にズレている。
   150Hz、90Hzが同じ強さであれば、滑走路のセンターラインに向かって正しく侵入している

この3つの電波信号を受信して、正しく着陸ができるようになった。


4つの着陸方法があるが、ILSが一般的である。
 ①ILS
 ②RNAVI
 ③VOR
 ④ビジュアルアプローチ


離着陸時の事故

 離陸後3分、着陸前8分に事故が多い;
『魔の11分』
 事故件数は圧倒的に着陸時に多い、離陸時に比べて約10倍
 
パイロットが緊張するのは?  離陸時の方が緊張する。理由;燃料を満タンにして飛び上がるので
 B777の場合、満タンの燃料;17万リットル、ドラム缶850本、重さにすれば140トン

離陸時の速度;200km/h~250km/h;機種や気候条件、荷物の重量により変わる。
 V1;離陸決心速度のこと。
 VR;機首を引き起こし始める速度
 V2;高度が11mに達した速度

着陸速度;220km/h~300km/h
 Vref;滑走路の端を約15mの高度で通過する速度;220km/h~300km/h
 向かい風に向かって着陸するが、高度を下げると風が弱くなるので、次第に速度を増す必要がある。
 弱風では10km/h、強い風の場合は30km/h程度、速度を上げる。


航空機が安全に飛行できるよう電波灯台、VOR、航空識別監視装置等々、航空路の要所要所にサポートシ+-ステムが設置されている。

 少し専門的になったかも!

(注)この記載内容は、
 2007年(平成19年) 『第1級陸上無線技術士』国家試験の内容を追憶し、一部をまとめたもの。
 「第1級陸上無線技術士」は、あらゆる無線設備の技術操作ができる電波・通信関連の最高位資格
 電磁気学(無線工学の基礎)・アンテナ理論(無線工学A)、無線機器(無線工学B)・電波法(法規)4科目で、幅広く高度な内容で出題され難関です。
 各科目(法規は2時間)2時間半、一日午前・午後2科目、2日間に亘り試験があり何とか合格した。

 
 その後、電気主任技術者3級(電検3種)に挑戦、合格。これは強電分野、電力関係の資格
 さらに、電気工事士2種に挑戦、合格。これは電気工事資格
 定年後、3つの国家試験に挑戦し、『よくやったなぁ!』という思い出深い出来事です。

 
次の予定は、
 ①飛行機が空を飛びながら、どうして速度(対気速度、対地速度)が分かるのか?

 ②飛行機が空を飛びながら、どうして飛行高度(対地高度)が分かるのか?
 ③飛行機が空を飛びながら、どうして自分の位置(現在地)が分かるのか?
について書こうと思っている。